イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
「小母様には、困ってしまうわね。結婚する気が全くないというのに、しつこくわたくし達をひっつけさせようとするんですもの・・」
「ああ、まったくだ。」
帝国ホテルへと車を走らせながら、歳三はそう言うと助手席に座る紗江子を見た。
「紗江ちゃんは、結婚は?」
「今は結婚したくないわ。フランスで本格的に服飾を学んで、小さい頃の夢だったデザイナーへの道を歩き出そうとしているところなのよ?そんな時期に、結婚なんて考えられないわ。」
「そうか・・」
「それよりも、歳三様の妹さん・・確か千尋さんといったわよね?彼女、今おいくつなの?」
「今年で13になるんだが・・母さんはあいつの嫁ぎ先を必死で探しているんだよ。」
「まぁ、酷い。まだ13の千尋さんを、顔も知らない相手と結婚させようとなさっているの、小母様は?」
「ああ。母さんは、早く千尋を家から追い出したいんだろう・・」
歳三はそう言うと、ハンドルを握り締めた。
「お嬢様、気がつかれましたか?」
「ええ・・ねぇ、義兄様は?」
「坊ちゃまなら、紗江子様をホテルまで送られました。」
「そう・・」
「お嬢様、お休みなさいませ。」
「お休み。」
千尋の部屋から出た睦が母屋へと戻ると、台所で怜子が険しい表情を浮かべながら女中達を叱っていた。
「このお皿、油汚れが残っているじゃないの!あなた方には給金分ちゃんと仕事をして貰わないと困りますよ!」
「申し訳ございません、奥様・・」
「二度と同じことをしたら、許しませんからね!」
怜子はそう言って女中達を睨んだ後、台所から出て行った。
「今夜の奥様は何やら機嫌が悪いねぇ。」
「そりゃそうだろう、あの離れの子の嫁ぎ先がなかなか見つからないんだからさ。」
「13の娘の嫁ぎ先を探すなんて、無理に決まっているよ。そんなに奥様は、この家からあの子を追い出したいんだろうかねぇ?」
「それよりも、歳三坊ちゃまはどうなさるおつもりなんだろうかねぇ?まさか、生涯独身を貫かれるおつもりじゃないだろうねぇ?」
「別にいいじゃないか、そんな事。あたしらには所詮、関係のない事さ。」
睦は女中達の噂話を黙って聞きながら、汚れた皿を洗った。
「歳三様、送ってくださってありがとう。」
「紗江ちゃん、おやすみ。」
帝国ホテルの前まで紗江子を送り届けた歳三は、そのまま車で自宅へと戻った。
「お帰り、歳三。」
「母さん、紗江子さんとは何もありませんでしたよ。」
「あら、そう・・」
「この際だから言っておきますが、俺は結婚する気はありません。だから、要らぬお節介はしないでください。」
「ま・・」
歳三の言葉を聞いた怜子の顔は、怒りで赤く染まった。
「それともうひとつ。あなた最近、千尋の嫁ぎ先を探していらっしゃるようですが、それも止めていただきたい。」
「歳三、あなた千尋のことをどう思っているの?まさか・・」
「部屋で休みます。」
歳三はそう言うと、怜子に背を向けて居間から出て行った。
翌朝、離れで歳三が千尋と朝食を取っていると、部屋に何やら慌てふためいた様子で睦が入ってきた。
「坊ちゃま、お嬢様、大変です!」
「どうしたの睦っちゃん、慌てた顔をして?」
「土御門興産が、倒産したそうです!」
にほんブログ村