イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
「おい、起きろ!」
「う・・」
債権者の男に遼太が連れて行かれた所は、男色専門の遊廓・雀楼だった。
「お前には、家の借金を全額返済するまでここで働いて貰う。」
「嫌だ、どうしてわたしがこんな所で・・」
「黙れ!」
遊廓から逃げ出そうとする遼太の腹を、男は拳で殴った。
身体をくの字に折り曲げた遼太は、苦しそうに咳き込んだ。
「その子が、土御門家の子かい?」
女将が居る部屋へと男に遼太が連れて行かれると、部屋の中央に置かれている座布団の上に、厚化粧をして髪を長船に結った女が座っていた。
どうやらこの女が、この遊廓を取り仕切る女将らしい。
「失礼ですが、あなた様は?」
「あたしは、ここの女将でみつっていうのさ。」
「ですが、ここは男色専門の遊廓では?」
「昔は亭主がこの廓を取り仕切っていたんだが、流行病でころりと死んぢまってねぇ。今はあたしがこの廓で取り仕切っているのさ。さてと、世間話は隅に置いておいて、あんたの顔を見せとくれ。」
「は、はい・・」
「男の癖に、憎らしい程肌理が細かい肌をしているじゃないか。それに、こんな別嬪そうそう見つからないよ。」
雀楼の女将・みつはそう言いながら、遼太の顔をじぃっと見た。
「屋介、こいつを奥の部屋へ連れて行きな。」
「へぇ。」
部屋に屈強な身体をした男が入ってくると、彼は遼太の手を掴んで部屋から連れ出した。
「おい、わたしを何処へ連れて行くつもりだ!?」
「あんた、これからここでそんな風に偉そうな口を利かない方がいいぜ?お前はここに売られた身なんだからな。」
雀楼の用心棒・屋介は、遼太を奥の部屋へと連れて行った。
そこには、鮮やかな色とりどりの襠を羽織った数人の男娼たちが居た。
「おい、今日からてめぇらの弟分が来たぞ。可愛がってやんな。」
「へぇ、わかりました。」
屋介が部屋から出て行った後、一人の男娼が遼太の前に現れた。
亜麻色の髪を伊達兵庫に結ったその男娼は、男の遼太でもハッとするほどの絶世の美貌の持ち主だった。
印象的なのは、彼の右目の下に小さな黒子があることだった。
「あんたが、土御門家の子かい?」
「遼太と申します・・あなた様は?」
「ああ、おいらは夕霧っていうんだ、宜しくね。あんた、名は?」
「遼太と申します・・」
「ふぅん、良い名だねぇ。そいじゃぁ、今日からあんたのことをお遼って呼ぼうかねぇ?」
夕霧と名乗った男娼は、そう言うと鈴を転がすかのような声で笑った。
「お遼、あんたも可哀想にねぇ・・家が没落して、こんな掃き溜めに売られるなんてさ。」
「わたしは、これからどうなるんでしょう?」
「まぁ、ここでの仕事は男に身体を売る仕事しかないからねぇ。慣れるしかないよ。」
「慣れろと言われましても・・」
「まぁ、わからないことがあったら、いつでもあたしに聞いとくれ。」
「ふん、お夕、やけにその新入りに親切じゃないか?」
奥の方に座っていた黒髪の男娼が、そう言って遼太と夕霧を交互に睨みつけた。
「おや明石、あんたこの子に妬いてんのかい?」
「ふん、妬いてなどないさ。ただ、華族様がこんな所まで落ちちまって、可哀想だなぁって思っただけさ。」
黒髪の男娼・明石の言葉を聞いた遼太は、俯いて唇を噛んだ。
(こんな底辺の者に、憐れまれるなぞ・・)
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