イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
翌朝、歳三が部屋で寝ていると、誰かが寝室のドアをノックした。
「坊ちゃま、起きて下さいませ。」
「もう少し寝かせろよ、うるせぇなぁ。」
歳三はそう呟くと、ベッドの中で寝返りを打った。
「大鳥様が、客間にいらしております。」
「大鳥さんが?こんな朝早くから、一体俺に何の用だ?」
「何でも、スケートリンク運営の事で、坊ちゃまに相談したいことがあるとか・・」
「わかった。」
数分後、客間で寛いでいる大鳥の前に、寝癖を直さずに不機嫌そうな表情を浮かべた歳三が現れた。
「すまないね土方君、こんな朝早くに。」
「スケートリンクの事で相談があるんだろう?」
「うん。今回の事業を簡単に纏めた報告書だけど・・」
大鳥はそう言いながら、書類鞄からスケートリンク事業の報告書を取り出すと、それを歳三に手渡した。
「悪くないんじゃねぇか?もうスケートリンクを開く場所は決まっているんだろう?」
「ああ。」
「何処だ?」
「甲府にいい土地があってね、幾つか候補があったんだが、最終的には甲府の土地に決めようと思っているんだ。」
「随分と遠い所に決めたんだな。まぁ、スケートリンク事業は莫大な金がかかるから、スケートリンク建設までに色々と調べねぇといけねぇし・・」
歳三はそう言うと、前髪を鬱陶しそうに掻きあげた。
「大鳥さん、地元住民への説得は済んだのか?」
「ああ。」
「でもこの日本でスケートリンクを建設するなんざ、まだ夢物語に過ぎねぇだろうが?」
「その夢物語を現実にするのが、僕達の仕事さ。」
「へん、わかったような事を言いやがる。大鳥さん、あんたどうしてスケートリンクを日本に開こうなんざ考えたんだ?」
「留学先のスウェーデンで、冬になると凍った湖の上を楽しそうに滑る子ども達を見てね、その時初めてスケートっていうものを知ったんだ。それを日本全国に普及したくなってねぇ・・」
「そうか。けどよ大鳥さん、スケート靴は庶民の手には届かねぇ高級品だろう?それに、スケートリンクを建設して地元住民達に開放するにしたって、維持には莫大な費用がかかるぜ?スケートリンクを維持する為には、ある程度入場料を高く設定しねぇとなぁ。」
「頭が痛い問題が色々と出て来たね。」
「ひとつ仕事をするっつっても、金の事を考えりゃぁ問題が山のようにあらぁ。まぁ、長い目で客観的にその問題を見て、冷静に分析しながら事業を進めねぇとな。」
「わかった。それじゃぁこれで、僕は失礼するよ。」
「ああ。」
玄関ホールで大鳥を見送った歳三は、そのまま自分の部屋に戻って二度寝した。
「歳三、まだ寝ているの?」
「何だよ、母さん。俺に何か用か?」
「刑事さんが、あなたにお話を聞きたいっていらしているわよ。この間、襲われた事について・・」
「わかった。すぐ支度するから客間で待っていてくれと伝えてくれ。」
「ええ。」
一階の客間に入った怜子は、ソファに座っている二人組の刑事と向かい合うように彼らの前に置いてあるソファの上に腰を下ろした。
「朝早くから、いらしてくださったというのに大したおもてなしもできませず、申し訳ございません。」
「いえ、お気づかいなく。」
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