イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
「土方君、起きて~!」
「何だよ、うるせぇなぁ・・」
翌朝、歳三が布団の中で寝返りを打っていると、部屋のドアを大鳥が叩いた。
「早く起きてよ、また滑りに行こうよ。」
「うるせぇ!」
苛立った歳三は布団から起き上がると、ドアを開けた。
「やっと起きたね!」
「大鳥さん、朝っぱら一体何の用だ?」
「別に。」
「何の用もねぇなら、もう少し俺を寝かせてくれねぇか?昨日あんたに付き合わされた所為で身体中の筋肉が痛てぇんだよ。」
歳三はそう言うと、大鳥の鼻先でドアを閉めた。
「全く、つれないなぁ・・」
大鳥は溜息を吐くと、そのまま歳三の部屋の前から去った。
「なぁ康二郎、これからどうするつもりなんだよ?」
「別に、何も考えていない。」
「そうか・・」
ホテルの食堂で大鳥がコーヒーを飲んでいると、隅のテーブル席で数人の青年達が何かを話していることに気づいた。
「何の計画もなく此処に来たのなら、全くの無駄足だ。もう、東京に帰ろう?」
「そうだよ、康二郎。」
「俺は暫くここに居る。帰りたければお前らは勝手に東京に帰るといい。」
「何だよ、その言い方・・」
「落ち着けよ山本。康二郎、俺達はもう東京に帰るよ。」
「ああ、気を付けて。」
康二郎を食堂に残し、彼の友人達はホテルをチェックアウトして東京へと戻って行った。
すっかり冷めてしまったコーヒーを飲みながら、康二郎は溜息を吐いた。
「ここ、いいかな?」
「ええ、構いませんが・・」
「君、昨日スケートリンクで土方君のことをずっと睨んでいたよね?土方君とは知り合いなの?」
「ええ。向こうは、俺の事を憶えていないようですが・・」
康二郎はそう言うと、冷めたコーヒーを一気に飲み干した。
「大鳥さんでしたっけ?何故土方と一緒に仕事をしているんですか?」
「まぁ、色々とあってね・・はじめは近寄りがたいなぁって思ったんだけど、一緒に仕事をしていくうちに、面白い人だなぁって思ったんだ。」
「土方が、面白い?」
「萱沼君だっけ?君は、土方君の事をどう思っているの?」
「俺は・・あいつを憎んでいます。」
「何故、土方君を憎むの?」
「それは・・自分でもわかりません。」
康二郎はそう言うと、椅子から立ち上がった。
「もういいですか?」
「時間を取らせて、済まなかったね。」
「いいえ。」
康二郎は食堂を出ると、そのまま自分の部屋へと向かった。
ベッドの上で横になりながら、彼は初めて歳三と会った日の事を思い出していた。
あれは、康二郎がまだ中学に入学した頃のことだった。
家庭の事情でそれまで住んでいた青森から、慣れない東京へと引っ越してきた康二郎は、友人が一人も居ない中学へと進学した。
喋ると訛りが出てしまう事を恐れた康二郎は、一日中教室で誰とも喋らずにいた。
そんな彼に声を掛けて来たのが、歳三だった。
“お前、いつも黙って何してるんだ?”
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