イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
それから数日が経った、ある日の事。
恩谷が紛失したと言っていた現金入りの封筒が、中身を抜かれた状態で看護婦の詰所の前に置かれていた。
その封筒の中には、“つい出来心で盗んでしまいました、申し訳ありません”とだけ書かれた手紙が入っていた。
「恩谷先生、おはようございます。封筒、見つかったようですね?」
「ああ。だが肝心の中身がなくなっては元も子もないね。」
「そうですか・・でも、土方先生のカルテのように、誰かに焼却炉で焼き捨てられていないといいのですがねぇ・・」
「君、何が言いたいんだ?」
恩谷はそう言うと、草田を睨んだ。
「わたくしは何も申し上げておりませんよ。お金が早く見つかるといいですね、恩谷先生。」
草田は恩谷に微笑むと、そのまま彼に背を向けて患者が待つ病棟へと向かった。
「おはようございます。」
「おはようございます、婦長。」
草田が一週間前から入院している患者・高田の病室に入ると、彼は読んでいた本から顔を上げて草田に頭を下げた。
「高田さん、血圧測りますね。」
「はい、宜しくお願いします。」
「最近どうですか?夜はよく眠られていますか?」
「はい。ここに入院する前は朝まで眠れない日が多かったのですが、今ではベッドに横になったらすぐに眠れます。」
「それは良かったですね。病気を治す為には、睡眠をよくとることが大事ですから。」
高田の血圧を測った草田は、そう言うと彼に微笑んだ。
「何かご用がおありでしたら、ベルで呼んでくださいね。」
「わかりました。」
草田が高田の病室から出て看護婦の詰所へと戻る途中に、彼女は恩谷が院長室に入るのを見た。
「失礼します、院長先生。」
「何だ、恩谷君。こんな朝早くにわたしに用かね?」
「院長先生、あの男をどうしてここから追い出さないのですか?」
「土方君のことかい?彼は大変優秀な医師だ。いくら君が彼を気に入らないからといって、それだけの理由で彼をここから追い出す訳にはいかんよ。」
「しかし、院長・・」
「恩谷君、あの盗難事件は君の自作自演だそうじゃないか?」
「それを何処でお聞きになられたのですか?」
「何処だっていいだろう?これ以上、騒ぎを起こさないでくれよ。」
永嶋院長はそう言って恩谷を睨むと、そっと彼の肩を叩いて院長室から出て行った。
「土方君、ここに座ってもいいかい?」
「はい、構いませんが・・院長、何かわたしに用ですか?」
「いや、別に用というわけではないが・・今週末、友人とゴルフに行こうと思ってね。もしよかったら、君もどうだね?」
「誘っていただけて嬉しいのですが・・わたし、ゴルフを一度もしたことがないものでして・・」
「慣れれば楽しいものだよ。」
「そうですか・・ではご一緒させていただきます。」
「道具はわたしのものを使ってくれていいよ。じゃぁ、週末に会おう。」
「はい、楽しみにしております、院長。」
歳三と楽しげに話している永嶋の姿を、恩谷は遠くから恨めしそうに見ていた。
「土方先生、お帰りなさい。」
「増谷先生、ただいま戻りました。」
「土方先生、あなたにお客様ですよ。」
「わたしに、客ですか?」
「ええ。女の方です。」
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