イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
「中庭が騒がしいから何だろうと思って来てみたら・・美彌子、何故稔彌は裸なんだ?」
「あの子が言うには、退屈だから池で泳いだと・・」
「お前は母親の癖に、稔彌を止めようとしなかったのか!?」
「申し訳ありません・・」
「とうさま~!」
吉田の顔を見て満面の笑みを浮かべた稔彌は、裸のまま彼に抱きついた。
「汚い手でわたしに触るな!」
邪険に息子の小さな手を振り払った吉田は、そう言って美彌子と稔彌を交互に睨み付けると中庭から去っていった。
「菊、稔彌をお風呂場に連れて行って頂戴。」
「かしこまりました、お嬢様。」
菊はそう言うと、今にも泣き出しそうな顔をしている稔彌を宥めながら、彼の小さな手をひいて中庭から去って行った。
「きく、どうしておとうさまはぼくやかあさまにつめたいの?」
「それは、坊ちゃまが突飛な行動ばかりされて、お母様達を困らせるからですよ。」
「とっぴってなに?」
「坊ちゃま、余りお母様を困らせてはいけませんよ。」
浴室で稔彌の身体を洗いながら、菊はそう言って彼に微笑んだ。
「あなた、今日のお帰りは何時頃になりますの?」
「わからん。夕飯は外で済ますから、作らなくていい。」
「わかりました・・お気を付けて行ってらっしゃいませ。」
「美彌子、稔彌はいつもあんな行動を取っているのか?」
「いいえ・・わたくしにもわかりません。」
「一度あの子を精神病院で診て貰え。あの子はまともじゃない。」
吉田はそう言って玄関ホールで自分を見送りに来た美彌子の方を一度も振り返らずに、子爵邸から出て行った。
「土方様、またお会いしましたわね。」
「どうも・・」
「満州行きのお話、あれから考えてくださったかしら?」
「伊東さん、その話は昨夜終わった筈だが?」
学会二日目の朝、歳三は病院の会議室で伊東に満州行きの話を振られて彼にそう答えると、彼は怪訝な表情を浮かべた。
「わたくし、昨夜一言もあなたの事を諦めるとは言っていなくてよ。」
伊東はそう言って歳三の隣に座ると、そっと彼の内腿を軽く撫でた。
「それよりも吉田君の息子さんの事、お聞きになった?」
「ああ、その事ですか・・確か、今年の二月に産まれたばかりだとか・・」
「あら、そんな筈がありませんわ。吉田君の息子さんは今年で三歳になるのよ。」
「それは、本当ですか?」
「本当よ。わたくし、一度吉田君の息子さんとお会いしたのだけれど・・あの年頃の子って落ち着きがないのかしら、わたくしと吉田君が話している間、ずっと部屋中を走り回っていましたわ。」
「そうですか・・」
「それでは、御機嫌よう。」
伊東はそう言うと歳三に手を振って会議室から出て行った。
「土方さん、おはようございます。」
「おはよう。」
歳三は斎藤に挨拶すると、後ろの方の席に座っている吉田の前に立った。
「吉田、ちょっと話がある。俺と一緒に来い。」
「話ってなんだい?ここでは出来ない話かい?」
「お前ぇ、どうして俺と千尋に嘘を吐いた?さっき伊東の野郎から、お前ぇの息子の事を聞いたぜ。」
「ああ、その話か。」
吉田はそう言うと、口端を上げて笑った。
「何が可笑しいんだ?」
「別に。君と奥さんに嘘を吐いた事は謝るよ。土方、少しは僕の話を聞いてくれないか?」
「お前ぇと話す事は何もねぇ。」
にほんブログ村