イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
「土方さん、どうしました?」
「窓際のテーブル席に、伊東が誰かと居る。」
「伊東さんが?」
斎藤がそう言って窓際のテーブル席を見ると、伊東が誰かと談笑していた。
「伊東さんは一体誰と話しているんでしょう?」
「さぁな。それよりも斎藤、この店のお勧めはなんだ?」
「ハンバーグです。ここの店のハンバーグは、肉汁がたっぷり入っていて美味しいんですよ。」
「そうか。」
歳三は伊東が誰と話しているのか気になった。
「今日、吉田と会ってきた。」
「吉田と?」
「ああ。息子の事で相談に乗って欲しいと言われてな。」
「そうですか・・」
「まぁ、明日吉田の家に行って、あいつの息子に会ってみる。」
「そうですね・・」
歳三と斎藤が食後のデザートを味わっていると、店から伊東が長身の男と出て行くところだった。
「あれが、この前お話した内海次郎です。」
「あいつが・・」
伊東の隣に立っている長身の男―内海次郎は、窓ガラス越しに歳三を見た。
「どうかなさったの?」
「いいえ・・」
「さっきお話しした土方様の事だけれど・・あなたのお力添えで、彼を満州に呼び寄せられないかしら?」
「わたしに出来る限りの事は致しましょう。」
「ありがとう、あなたって本当に頼りになる方ね。」
伊東はそう言って不敵な笑みを口元に浮かべると、内海に抱きついた。
翌日、歳三は吉田子爵邸を訪ねた。
「土方歳三様でいらっしゃいますね?」
「ああ・・」
「若奥様と若旦那様が客間でお待ちです、どうぞ。」
老婦人に案内され、客間に入った歳三は、そこで美彌子と稔麿の一人息子である稔彌に初めて会った。
「土方、紹介しよう。この子が、わたし達の息子の、稔彌(としや)だ。」
「稔彌君、初めまして。」
歳三が腰を屈めて稔彌に挨拶すると、彼は歳三と目を合わそうとせず、客間から出て何処かに行ってしまった。
「済まない、あの子に悪気はないんだ。」
「いや、謝らなくてもいい。稔彌君を捜して来る。」
客間を出た歳三が吉田子爵邸の中庭を歩いていると、誰かが自分に向かって石を投げつけていることに気づいた。
「何処に居るんだ、稔彌君?」
歳三はそう言うと、近くの茂みに稔彌が隠れていることに気づき、そっと彼の背後に忍び寄った。
「つかまえた!」
「なんでわかったの?」
「おじさんも昔、お庭で君みたいに隠れんぼしていたから、君が隠れる場所が何処なのかわかるんだ。」
「なんだぁ、つまんない。」
稔彌を抱いた歳三が客間に入ろうとした時、中から吉田の怒声と美彌子の啜り泣く声が聞こえた。
「お前の所為だ、お前の所為で稔彌が自閉症になったんだ!」
「やめて、あなた・・」
「うるさい!」
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