イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
「何するんだ!」
「てめぇさっき、この診療所は日本人専用だとぬかしやがったな?」
「僕は事実を言ったまでのことだ、それの何が悪い!」
「てめぇ、また痛い目に遭わねぇとわからねぇのか!」
歳三が再び拳で林田の頬を殴ろうとしたとき、大鳥が慌てて二人の間に割って入った。
「土方君、暴力はだめだ!」
「畜生、放せ!」
「いい加減にしたまえ!」
大鳥は暴れる歳三の頬を平手で打った。
「今日はホテルに戻って、頭を冷やしたほうがいい。林田君、君も家に帰りたまえ。」
「大鳥さん、土方を庇うおつもりですか?僕は、被害者なんですよ!」
「そんなことはわかっている。詳しい話は明日、君と診療所の看護婦たちから聞こう。」
「わかりました・・」
歳三に殴られた頬を擦りながら、林田はわざと歳三の肩にぶつかって診察所から出て行った。
「大鳥さん、済まねぇ・・つい、カッとなっちまって・・」
「赴任初日から、散々な目に遭ったね。土方君、今夜は一杯付き合って貰うよ?」
「わかったよ・・」
その日の夜、大鳥とともに歳三は新京の駅にほど近い飲み屋で彼と飲んだ。
「ったく、林田の野郎、ふざけやがって!明日会ったらタダじゃおかねえ!」
「土方君、飲みすぎだよ・・」
「うっせぇ、あんたが誘ったんだろう?今更ケチってるんじゃねぇよ!」
ビール一杯ですっかり泥酔してしまった歳三は、大鳥に向かって管を巻きながら、テーブルに突っ伏して眠ってしまった。
「あ~あ、もう・・土方君、起きて。」
「う~」
大鳥は酔い潰れた歳三を店員に協力して貰いながら彼をタクシーに乗せ、ホテルまで送った。
「土方君、起きて、朝だよ~!」
「うるせぇなぁ、もう少し寝かせろよ。」
二日酔いで痛む頭を擦りながら、歳三がホテルのベッドでそう言って寝返りを打つと、自分の目の前に大鳥の顔が現れ、彼は思わず悲鳴を上げてベッドから転げ落ちてしまった。
「そんなに驚くことないじゃないか?」
「あんた、何処から入ってきたんだ?」
「何処からって・・昨夜君が酔い潰れたから、ここまで僕が店から部屋まで運んできたんだよ?」
「そうか。今、何時だ?」
「もう9時過ぎだよ。」
「へぇ・・って、もう遅刻じゃねぇか!」
歳三はそう叫ぶと、ベッドから飛び起きてクローゼットの中からスーツとワイシャツを取り出した。
「あんた、何で早く起こしてくれなかったんだ!」
「だって君、何度も起きてって言ったのに全然起きなかったじゃないか!」
「なんだよ、俺の所為だっていうのかよ!?」
診療所へと向かう途中、大鳥とそんなくだらない会話を交わしていると、歳三は自分に向かって突っ込んでくる自転車に気付いた。
「土方君、危ない!」
歳三は咄嗟に自転車を避けようとしたが、間に合わなかった。
「大鳥先生、おはようございます。」
「おはよう。」
「あの、その顔の傷はどうなさったんですか?」
「ちょっと急いでいるときに自転車とぶつかっちゃってね。大したことないから気にしなくていいよ。」
「わかりました・・あの、今日から新しい先生がいらっしゃると聞いたのですが・・」
「ああ、彼ならもうすぐ来る筈だ。」
大鳥がそう言って診療所の正面玄関を見ると、派手な音を立てながら歳三が診療所に入ってきた。
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