イラスト素材提供:十五夜様
ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
「今日はあんたの所為で、朝からついてねぇ。」
「それはこっちの台詞だよ。」
自転車とぶつかった際についた顔の傷の上に絆創膏を貼りながら、大鳥はそう言って溜息を吐いた。
「林田、来るかな?」
「さぁね。」
「大鳥先生、林田先生は今日お休みを取られるそうです。」
「そうか。」
看護婦から林田が欠勤する事を聞いた大鳥は、電話の受話器を置いて歳三の方に向き直った。
「さっきの電話、聞いたかい?」
「ああ。林田の奴、逃げやがったな。」
「土方君、今度林田先生と会っても、彼と喧嘩しないようにね。」
「わかったよ。」
「大鳥先生、失礼致します。」
看護婦の鈴田が事務室に入ってきたので、大鳥は彼女に歳三の事を紹介した。
「鈴田さん、こちらは今日からここで働く事になった土方歳三先生。土方君、看護婦の鈴田君だ。」
「どうも。」
「初めまして、鈴田です。昨夜は大変でしたね?」
「鈴田さん、あの中国人達はただ診療所に講義をしに来ただけです。」
「その事はわたくし達も解っております。林田先生の対応が不味かった所為で、彼らは激昂した結果、あのような行動を・・」
「林田は、今日休みを取っているが・・一体奴はどうするつもりなんだ?」
「さぁ、それはわかりません。それよりも土方先生、間もなく開院の時間となりますから、準備の方を宜しくお願いしますね。」
「わかりました。」
歳三はそう言うと、白衣をスーツの上に羽織った。
「土方先生、もうすぐお昼ですよ。」
「そうか・・それにしても、疲れたなぁ・・いつも、こんなふうに忙しいのか?」
「いいえ。ただ、今日は何かと立てこんでいて忙しいだけです。」
鈴田はそう言うと、歳三の前に茶を置いた。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
歳三は茶を一口飲みながら、自転車とぶつかった時に痛めた左手を擦った。
「大丈夫ですか?」
「こんなのかすり傷だ、大したことねぇよ。」
「消毒します。」
「いや、いい。自分でする。」
救急箱から消毒薬を取り出した歳三は、左手にそれを浸したガーゼを押し当てた。
「お昼、何にします?」
「何処か近くで美味しい店はあるか?」
「ええ。ここから出て右に曲がった所に、美味しいラーメン屋がありますよ。」
「そうか、ありがとう。」
脱いだ白衣をコート掛けの上に掛けると、歳三は事務室から出て行った。
「ここか・・」
診療所から出た歳三は、鈴田から教えて貰ったラーメン屋『紅龍』に入った。
「いらっしゃい!」
「すいません、お勧めのラーメンを教えて下さいませんか?」
「うちは味噌ラーメンが名物なんですよ。」
「それじゃぁ、味噌ラーメンひとつお願いします。」
「はいよ!味噌一丁~!」
「味噌一丁~!」
割烹着姿に姉さん被りをした女将は、歳三に笑顔を浮かべると厨房の奥に消えた。
「味噌ラーメン、どうぞ。」
「有難うございます。」
『紅龍』の味噌ラーメンは、美味かった。
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