イラスト素材提供:十五夜様
「林田さん、どうしてあなたがここに?」
「土御門君、君もここに来たということは、もしや風邪で倒れた土方の名代かい?」
「それは・・」
「おや、二人とも揃ったようだね。」
廊下で林田と一馬が睨みあっていると、二人の前に宮田が現れた。
「宮田さん、土方は風邪で倒れてしまって、わたくしが名代で参りました。」
「さっき土方君から電報が届いたよ。さてと、こんなところで立ち話をするのもなんだから、部屋に入ろうじゃないか?」
「わかりました。」
宮田の部屋に入った林田と一馬は、彼が淹れてくれた紅茶を飲みながら、宮田が自分たちに話を切り出すのを待っていた。
「宮田さん、お話というのは何でしょうか?」
「土方君が、戦地に派遣されることが正式に決まったよ。」
「そうですか・・宮田さん、土方先生は下のお子さんがまだ産まれたばかりです。どうか・・」
「君が言いたいことはわかるがね、もうこれは決定したことなのだよ。一度決定したことを覆すことなど不可能だ。」
「宮田さん・・」
落胆の表情を浮かべた一馬とは対照的に、林田は嬉しそうな顔をしていた。
「宮田殿、戦地ではあなた方の力となれるよう、頑張ります!」
「君達には、期待しているよ。」
関東軍本部を後にした一馬は、その足で歳三が泊まっているホテルへと向かった。
「土方先生、大丈夫ですか?」
「ああ。薬飲んだら少しはよくなった。」
そう言って歳三は一馬に笑みを浮かべたが、まだ彼は熱に魘(うな)されていたようで、呼吸が荒かった。
「一馬君は、寒さには慣れているのか?」
「ええ。どちらかというと、わたしは夏の暑さに弱くて・・夏はよく、体調を崩して養父母に心配をかけていました。」
「そうか・・そういやぁ、遼太も夏になると学校を休みがちになっていたなぁ。やっぱり、双子っていうのは同じ事が起きるものなんだなぁ・・」
「まぁ、そうでしょうね。土方先生、葛根湯でもおいれしましょうか?」
「ああ、悪いな・・」
昼過ぎになると、午前中晴れていた天気が急に荒れ始め、冷気を含んだ風が窓硝子を叩いた。
「一馬君、もう帰ったほうがいいんじゃないか?」
「いえ、暫くここにいます。」
「そうか・・帰るときは声をかけてくれ。」
「わかりました。」
歳三は激しく咳込みながら、ベッドのサイドテーブルに置いてある封筒を手に取った。
それは、11月に三男・顕人(あきと)を出産した千尋からの手紙だった。
『旦那様、顕人が産まれてから一ヶ月になりますが、毎日が忙しく、一日があっという間に過ぎてゆきます。満州の冬は厳しいものだと聞いております。お風邪を召されたら、無理をせずにゆっくりとお休みになってくださいね。千尋』
手紙に同封されていた顕人の写真を眺めながら、歳三はそっと写真に写る我が子の顔を撫でた。
「顕人ちゃんというのですか?」
「ああ。早く、千尋たちに会いてぇなぁ・・」
「きっと会えますよ。」
12月14日、歳三は半年間の任期を終え、帰国する日を迎えた。
(やっと、日本に・・千尋たちの元に帰れる!)
だが、運命は残酷だった。
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