ライン素材提供:ひまわりの小部屋様
1941(昭和20)年12月8日。
歳三が林田とともに戦地へ派遣されてから一年が過ぎた。
戦地での勤務は過酷そのもので、弾丸が飛び交う戦場で歳三たちは毎日衛生兵とともに負傷者の治療に当たった。
(もうすぐ、クリスマスだな・・)
歳三は壁に掛けられたカレンダーを見てそう思うと、長崎に残してきた妻子のことを想い溜息を吐いた。
昨年のクリスマスは、家族と一緒に過ごせなかった。
そして、今年のクリスマスも、歳三は一人で過ごすことになる。
未だに宮田から歳三に帰国命令は出ていない。
それほど戦況が悪化しているということなのだろうか。
「土方先生、宮田さんがお呼びです。」
「わかった。」
歳三はそう言うと、椅子から立ち上がって部屋から出た。
「宮田さん、俺に話というのは・・」
「君の帰国のことだが・・今年も取りやめになった。本当に済まない。」
「いいえ・・」
宮田にはそう言いながらも、歳三は落胆の表情を隠せなかった。
「もうすぐクリスマスだな。君は今年も一人でクリスマスを過ごすのかね?」
「ええ。」
「今夜、関東軍でパーティーがある。君は是非出席して貰いたい。」
「わかりました。」
その日の夜、新京市内のホテルで開かれた関東軍のパーティーで歳三が宮田達と談笑していると、そこへ一人の兵士が何やら慌てふためいた様子で大広間に入ってきた。
「どうした?」
「ラジオを、ラジオをおつけください!」
「誰か、ラジオをつけろ!」
ラジオのスイッチが入れられ、臨時ニュースを告げるチャイムの音が大広間に響くと、それまで談笑していた兵士たちが一斉に黙り込み、ラジオの方を見た。
『臨時ニュースを申し上げます・・』
ラジオから流れてきたのは、日本軍が8日未明にハワイの真珠湾にて奇襲攻撃を行ったというニュースだった。
「天皇陛下、万歳!」
ラジオの臨時ニュースが終わった後、兵士たちの誰かがそう叫んだ。
「天皇陛下、万歳!」
「大日本帝国、万歳!」
兵士たちは一斉に万歳三唱し、中には涙を流す者も居た。
この日、日本軍はハワイ・真珠湾沖に停泊している米戦艦・オクラホマを攻撃し、沈没させた。
太平洋戦争の開戦の火蓋が、こうして切って落とされたのである。
「万歳、万歳!」
「大日本帝国万歳!」
長崎では、旭日旗を象った提灯を持った市民たちが万歳三唱しながら街を行進し、市民達は老若男女問わず旭日旗を振りながら開戦の報せを受け歓喜に震えていた。
「やはり、戦争が始まってしまいましたか・・」
「これから日本は、どうなってしまうんだろうね?」
一馬は診療所でラジオの臨時ニュースを聴きながら、これから日本はどうなってしまうのだろうかという一抹の不安を抱きながら、溜息を吐いた。
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