イラスト素材提供:十五夜様
「義姉さん、千尋お嬢様は身重なんですよ。それなのに慣れない農作業をさせるなんて、あんまりです。」
「睦さん、あの人たちは客としてこの家に暮らしているのかしら?」
「それは・・」
「暫くうちに世話になるつもりだったら、家の仕事を少しでも手伝ってもらわないと困るのよ。そう千尋お嬢様にも言っておいて頂戴ね。」
陸子はそう言って睦を睨みつけると、そのまま畑に行ってしまった。
「お母様、大丈夫?」
「ええ・・凛子、お前も畑に行きなさい。」
「でも・・」
「わたしは少し休んだから大丈夫だから。」
「わかりました・・」
凛子が畑に戻ると、草刈りをしていた陸子がうつむいていた顔を上げ、凛子を睨んだ。
「遅いわよ、今まで何をしていたの?」
「すいません・・」
「さっさと草刈りをして頂戴。色々とまだ沢山やることがあるんだからね。」
慣れない農作業に悪戦苦闘した凛子は、千尋が居る離れに入ると、そこでは幹朗と千尋が何かを話していた。
「あんた、いつまでここに居るつもりね?」
「それはわかりません。」
「言っておくけど、長くここに住み着かれると迷惑なんだよ。ここに居たければ、家の仕事を手伝ってくれないと困るんだ。」
「わかりました。」
「まったく、本当にわかっているんだか・・」
幹朗はそう言って舌打ちすると、そのまま離れから出て行った。
「お母様、あの人から嫌なことを言われたの?」
「凛子、畑での仕事は終わったの?」
「うん・・お母様、あの人嫌いだわ。なんだか錐(きり)みたいな人だもの。」
「目上の人を、そんな風に言ってはいけませんよ。」
その後も、陸子は何かと身重の千尋に辛く当たった。
千尋は慣れない農作業に悪戦苦闘しながら、睦たちの家族と子供達の食事を毎日作った。
その無理が祟ったのか、千尋は床に臥せることが多くなった。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ・・」
「妊婦だからって甘えないでね、千尋さん。」
「すいません・・」
千尋はなぜ自分に陸子が辛く当たるのかがわからず、いつしか千尋は陸子に対して苦手意識を持ってしまった。
「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」
「ええ。どうしたの睦っちゃん、こんな夜中に?」
「義姉さんのことですけれど、義姉さんは兄と結婚して10年経ちますが、なかなか子供が授からないんです。」
「そう。」
「お嬢様たちがこの家に暮らし始めて、凛子ちゃん達を見て義姉さんは何故自分に子供が授からないのかという悔しさを感じていたに違いありません。だから、その分お嬢様に対して辛い仕打ちをなさるんです。どうか、義姉さんのことはわたくしに免じて許してやってくださいませんか?」
「わかったわ。睦っちゃんも辛いわねぇ、わたくしとお兄様達の間で板挟みになって・・」
千尋はそう言うと、泣きじゃくる睦の肩をそっと叩いた。
「睦っちゃん、明日も早いでしょう?もう休んだからどうかしら。」
「はい、わかりました。」
翌朝、千尋が布団から起き上がろうとしたとき、彼女は突然激しい腹痛に襲われ悲鳴を上げた。
「お母様、どうなさったの?」
「凛子、睦っちゃんを呼んで頂戴・・」
「睦さん、お母様の様子が変なの!」
凛子に連れられ、睦が離れの部屋に入ると、千尋は蒼褪めた顔をしながら睦を見た。
「睦っちゃん、お医者様を呼んで・・」
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