「右から二番目の馬が、余の馬だ。」
フェリペがそう言って指した方をクリスティーネが見ると、そこには美しい葦毛の馬が立っていた。
「まぁ、美しい馬ですわね・・」
「そうであろう。余が子馬の頃から育てて来た馬だ。」
フェリペは口元に笑みを浮かべながら、葦毛の馬を愛おしげに眺めた。
やがてゲートが開き、騎手を乗せた馬達がパドックへと躍り出た。
「行け、そこだ、行け~!」
「くそっ、このままじゃ負けちまう!」
「行け~!」
激戦の末、勝利を手にしたのは、フェリペが所有する葦毛の馬・レオノスだった。
「陛下、優勝おめでとうございます。」
「わたくしは最初からレオノスが勝つと信じておりました。」
レースが終わり、インペリアル・ボックスには次々と貴族達がフェリペに会いに来ては、彼に阿(おもね)りの言葉を掛けていた。
「そなたらの馬もなかなかのものであった。」
「いえいえ、そのようなことは・・」
貴族達はそう言いながら、初めてクリスティーネの姿に気づいた。
「おやクリスティーネ様、何故こちらに?」
「クリスティーネは、余が招いたのだ。」
「何と・・」
「皆様、こんにちは。」
「クリスティーネ様、今日のドレスはあなた様のブロンドの髪に映えてお美しいです。」
「まぁ、ありがとう・・」
貴族達のお世辞が、決して好意からくるものではないということを、クリスティーネは知っていた。
宮廷入りしてまだ日が浅いクリスティーネだったが、自分に愛想笑いを浮かべている貴族達の腹黒い考えは容易に読めた。
「では皆の者、また王宮で会おうぞ。」
「陛下、お気を付けて。」
クリスティーネがフェリペとともにインペリアル・ボックスを出ると、貴族達が二人に深く頭を垂れていた。
「クリスティーネよ、そなたは先程あのような者達に嫌な顔をひとつせずに接しておったな。」
「父から、どんな相手にでも礼を尽くせと幼い頃から教えられたものですから。」
「そうか。余はこれから王宮に戻るが、そなたはどうするのだ?」
「わたくしも、陛下とともに王宮に参ります。」
「クリスティーネよ、そなた弓の腕はどうだ?ビトールから、そなたの弓の腕はこの国一番のものだと聞いたが・・」
「幼い頃に父から剣術や弓術を習いましたから、腕には自信があります。それが何か?」
「一月後に、余が主催する弓術大会があるのだが・・そなたも出場してみないか?」
「わたくしのような若輩者が、そのような大会に出るなど畏れ多い事でございます。」
「そなたは今、宮廷内で注目されておるぞ、クリスティーネ。良い意味でも、悪い意味でもな。」
「それは、どういう・・」
「競馬場でそなたを見ていた貴族達の嫉妬に満ちた視線を思い出してみよ。そなたのような若くて美しい者が、何の実力もなく余の寵愛を受けておるのが彼らは気に入らぬらしい。」
フェリペはそう言うと、一口紅茶を飲んだ。
「では、わたくしが大会で優勝すれば、彼らの鼻をあかせると、陛下は思っていらっしゃるのですか?」
「そうだ。」
「では・・出場させていただきます。」
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