「ご苦労だったね、ステファノ。」
アンジェリーナはそう言うと、王宮の裏口近くでステファノに金貨が詰まった袋を手渡した。
「ありがとうございます・・」
「君が上手く王太后様を殺してくれて助かったよ。ここに居る貴族達は、王太后様が流行病で死んだと誰もが信じているからね。」
「では、わたしはこれで。」
ステファノはそう言ってアンジェリーナに頭を下げ、彼に背を向けて王宮内へと戻っていった。
「なぁ、あいつ大丈夫なのか?」
「何が?」
「あいつの顔、真っ青だったぜ?あの様子だと、俺達のことしゃべっちまうんじゃねぇのか?」
「それはないね。」
アンジェリーナはそう言うと、茂みに隠れているリコに微笑んだ。
「王太后様の次は、誰を狙うつもりなんだ?」
「それはまだ考えていない。」
アンジェリーナは漆黒のドレスの裾を摘むと、そのまま裏口から外へと向かった。
「お嬢様、何かお飲みになりますか?」
「ええ。ホットチョコレートが飲みたいの。」
「わかりました。」
アウグストが厨房へと消えた後、クリスティーネは溜息を吐きながら暖炉の近くに座った。
「クリスティーネ、王太后様がお亡くなりになられたというのは、本当なの?」
「ええ、お母様。何でも、流行病に罹って亡くなられたとか・・」
「まぁ・・」
リビングに入って来たリリスは、そう言うとソファに座った。
「お母様、お身体の具合はいかがです?」
「少しはよくなったわ。クリスティーネ、家の事をお前に任せてばかりで申し訳ないわね。」
「謝らないでくださいませ、お母様。わたくしは家長としての務めを果たしているだけですわ。」
「そう。クリスティーネ、明後日従弟のフィリスがここに来ることは知っているわよね?」
「いいえ、今知りましたわ。何故フィリスがここに?」
「何故って・・お前の結婚について話し合う為に決まっているでしょう?」
「お母様、フィリスは知っているの?わたくしが男だということを?」
「ええ。男でもかまわないと、フィリスは言っているわ。」
「そんな・・わたしまだ結婚は・・」
「クリスティーネ、あなたの代でファウジア家の血筋が絶えてしまうのは嫌なのよ。せめて、形だけでも・・」
「お母様・・」
「くれぐれも、フィリスに失礼のないようにね。」
「わかりました。」
数日後、母方の従弟・フィリスがファウジア家にやって来た。
「クリスティーネ、久しぶり!」
「フィリス、久しぶり。」
「すっかり大きくなったなぁ。何でもお前、陛下のお気に入りなんだって?」
「あら、そんなことないわよ。フィリスは今、何をしているの?」
「俺は近衛隊に入ったんだ。今まで田舎暮らしを楽しんでいたけど、これからは宮廷に上がることになるだろうな。」
「まぁ、そうなの。」
「それよりもクリスティーネ、あのアンジェリーナってやつを知っているか?」
「知っているわ。」
「あいつ、やる事が汚いんだよな。」
「フィリス、アンジェリーナ様を知っているの?」
「うん、まぁな・・」
フィリスが少し言葉を濁した事に気づいたクリスティーネは、嫌な予感がした。
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