千が斎藤達と朝餉を食べていると、蔵の方から歳三と総司、そして千尋が大広間に戻って来た。
「副長、あの・・」
「千、後で俺の部屋に来い。荻野、お前もだ。」
「わかりました。」
歳三はそう言うと、座布団の上に腰を下ろした。
(何があったんだろう?)
朝餉の後、千と千尋が副長室に入ると、そこには蔵の中に監禁されていた少年の姿があった。
「副長、この者が何故ここに居るのですか?」
千尋はそう言うと、冷ややかな視線を少年に向けた。
「こいつが俺に自分の話を聞いてくれと煩くてな・・お前達を証人として、ここに呼んだんだ。」
「証人、ですか?」
「ああ。俺と二人きりだと、後で嘘を吐いたとわかっても上手く誤魔化すだろうからな。」
「わかりました。」
千尋はそう言うと、少年を見た。
暗い蔵で数日間監禁された所為か、捕えられた時よりも少し痩せているように見えた。
「話したい事があるのなら、黙っていないでさっさと話したらどうですか?わたくし達はあなたとは違って、暇ではないのですから。」
「そんなきつい事言うなよ~、俺ここに来る前の事を必死に思い出しているんだからさぁ。」
少年はしきりに髪を掻くと、ぼそぼそと自分が幕末にタイムスリップした前のことを話し始めた。
「俺、友達と三人で伏見稲荷大社に行ったんだ。まぁ他に何もすることないからさぁ、稲荷像に乗っかって写真撮ったりしてふざけていたらさぁ・・突然急に雨が降って来て・・雷が俺の傍に落ちてきて、死ぬかと思ったよ。」
「罰当たりな事をしたものですね。神の前でそのような振舞いをなさったから、神が怒ったのですよ。命だけ取られなかっただけ、有難いと思いなさい。」
そう言った千尋は、再び氷のような冷たい目で少年を睨んだ。
「気絶して暫く経って目が覚めて、俺は伏見稲荷大社から出て・・」
「見知らぬ世界に迷い込んだ、というわけですね?」
「うん、まぁそんな感じ。」
「副長、今の話を聞いている限り、この者が法螺話をでっち上げているようには思えませんでした。」
「そうだな・・千、お前はどう思う?」
「僕はわかりません。話を信じる、信じない以前に、この者を僕は余りよく知らないので。」
「おい、同じクラスだったってのに、随分と冷てぇじゃねぇか!」
「同じクラスだからといって、一人一人生徒の名前と顔なんて、覚えていません。じゃぁ逆に聞きますけれど、あなたは僕の事をどれ位知っているというのですか?」
「そ、それは・・」
少年は千の問いに口ごもると、俯いた。
「副長、この者はどうなさるおつもりですか?」
「蔵に閉じ込めておくしかないな。俺の小姓は二人で充分だし、こいつの姿を隊士達に見られたら厄介事が起きるかもしれん。」
「また俺をあんなところに閉じ込めるのかよ、勘弁してくれよ!」
「外に放り出されないことだけでも有難いと思いなさい。」
「斎藤、こいつを蔵に戻せ。」
「承知しました。」
副長室の外に控えていた斎藤は、少年の腕を捻じりあげ、彼を蔵に連れて行った。
にほんブログ村