「土方君、栗田君の素性がわからないからといって、蔵に監禁していては、彼の方も精神的におかしくなるとは思わないかい?」
「だったらどうしたらいいんだ?」
「他の隊士と同じように、栗田君に仕事を与えてみたらどうかね?素性がわからないのは、君の小姓となったあの少年も同じじゃないか。」
「千はよく働いてくれているから、使い道はある。だが、栗田の野郎は何かと俺達に歯向かうから気に入らねぇ。そんなにあいつの面倒を見たけりゃぁ、伊東さんが見ればいい。」
「そうさせて貰うよ。」
「ただし、俺達に迷惑がかからない程度にやってくれ。あいつが勝手な真似をして俺達が迷惑を被るようなことになれば、俺は容赦なくあいつを斬る。」
「承知した。」
伊東が歳三との話を終え、副長室から出て行くと、廊下には栗田の姿があった。
「伊東先生・・」
「わたしとともに来なさい、栗田君。」
「はい!」
「なぁ、蔵の中に閉じ込められていた奴、伊東先生が引き取ったんだってさ。」
「伊東先生も物好きだよな。」
夕餉を食べていた千は、栗田が蔵から出され、伊東の元に預けられたことを知った。
「副長、お茶をお持ちいたしました。」
千が副長室に入ると、歳三は文机の前に座っていた。
「あの・・」
「栗田の事だったら、お前は何も気にするな。」
「それは、どういう意味でしょうか?」
「あいつは伊東が預かった。身分上は新選組の隊士だが、あいつが何か事をしでかしたら、その責任を取るのは伊東だ、俺達じゃねぇ。」
「そうですか・・」
「千、ここでの生活にはもう慣れたか?」
「はい。ただ、僕は荻野さんと比べて何もできませんけれど・・」
「出来なかったら、出来るようになればいいだけの話だ。」
「そうですね。」
「まぁ、お前は気が利くし、器用だから何とでもなるさ。問題は、お前にやる気があるかどうかだな。」
歳三はそう言うと、一枚の紙を千に手渡した。
「これは?」
「荻野が薙刀の稽古をつけに貰っている道場だ。見学だけでもしてみればいい。」
「わかりました。」
「お前がやりたいと思うことをやれ。ただし、一度やったことは必ずやり通せ。」
翌朝、千は千尋が薙刀の稽古をつけに貰っている道場へと向かった。
「ごめんください。」
「へぇ、どうぞ。」
「失礼いたします。」
千尋が道場の中に入ると、そこには道着姿の女性達が薙刀の稽古をしていた。
(何だか、迫力あるなぁ・・)
「あの、先生はどちらに?」
「先生やったら、あちらどす。」
門下生が指した方に、中年の女性が薙刀を構えていた。
「先生、お客様どす。」
「そうか。」
道着姿の門下生たちとは違い、師範の女性は藤色の小袖姿だった。
「初めまして、荻野千と申します。稽古を見学しに来たのですが・・」
「そうどすか。」
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