エルムントの葬儀に参列した後、アンダルスは夕食の席でビュリュリー伯爵家の者達と初めて会った。
「アンダルス、皆様にご挨拶なさい。」
「初めまして、アンダルスです。今日からビュリュリー伯爵家で暮らすことになりました、どうか宜しくお願いいたします。」
アンダルスがそう言って親族達に挨拶をすると、テーブルの隅に座っていた1人の少女が彼を見た。
「あなた、今まで旅芸人をしていたのでしょう? そんな子が、伯爵家での生活に慣れるのかしら?」
「おやめなさい、レベッカ。」
ビュリュリー伯爵夫人はそう言うと、姪っ子であるレベッカを睨んだ。
「アンダルスはあなたにとっては義理の従兄にあたるのですよ。失礼のないようになさい。」
「冗談ではありませんわ、伯母様。こんな粗野な方と血が繋がっているなんて、考えるだけでも恐ろしいですわ。」
「俺もあんたみたいな高慢な女と血の繋がりがあると思うだけで、吐き気がするね!」
アンダルスはそう言うと、レベッカを睨みつけた。
「まぁ、誰に向かって口を利いているの?」
「はぁ、そっちが先に喧嘩を売って来たんだろうが? 俺はその喧嘩を買っただけのことだ。何か文句でもあるのなら、ここで言ってみろよ!」
「おやめなさい、2人とも! 食事の席で喧嘩をするなど、貴族にはあるまじき行為ですよ!」
睨み合う2人をそう厳しく窘(たしな)めたのは、遅れてダイニングルームに入って来た老婦人だった。
「あなたが、アンダルスね?」
「婆さん、あんた誰?」
「わたくしはモーティリア。あなたにとっては義理の祖母にあたります。これからあなたはこのビュリュリー伯爵家の一員として相応しい人間になれるよう、明日から家庭教師の下で素晴らしい教育を受けることになります。まずは、その粗野で乱暴な言葉遣いを改めなさい。」
「わかったよ・・」
「“わかりました”と仰(おっしゃ)い!」
「わ、わかりました・・」
「宜しい。」
ビュリュリー伯爵家の女主人・モーティリアに叱られているアンダルスを見てほくそ笑んでいたレベッカは、彼女の厳しい視線が自分に向けられていることに気づいていなかった。
「レベッカ、あなたはアンダルスの育ちを悪く言う前に、言葉をよく選びなさい!」
「申し訳ございません、お祖母様・・」
「謝るのはわたくしではなく、アンダルスに謝りなさい。あなたは彼の事を侮辱したのですからね。」
祖母の言葉を聞いたレベッカは一瞬ムッとした表情を浮かべたが、渋々と彼女はアンダルスを侮辱したことを謝罪した。
「話は済んだことですし、食事にいたしましょう。」
「はい、お母様。」
夕食の間、アンダルスは黙々とステーキを一口大に切っては口に運ぶ作業を繰り返していた。
「アンダルス、あなたは今まで旅芸人として国中を巡っていたそうね?」
「はい。僕はお師匠様と歌や踊りをお客様の前で披露しながら、お金を稼いでいました。」
「そう。あなたのお師匠様は、数日前に亡くなられたエルムント様ね?」
「はい。お師匠様は僕にとって、実の父親のような存在でした。」
アンダルスの話を、モーティリアは笑顔で聞いていた。
「アンダルス、今日は疲れたでしょう?」
「次から次へと色々な事があって、疲れました。おやすみなさい、伯母様。」
「お休みなさい、良い夢を。」
自分の寝室となった美しい部屋を眺めながら、アンダルスはベッドに入って静かに目を閉じた。
にほんブログ村