ルドルフと環がシュタルンベルク湖でボート遊びを楽しみ王宮へと戻ると、馬車から降りた二人の元へ、舞踏会で環にシャンパンを掛けた貴婦人達がやって来た。
『タマキにシャンパンを掛けたのは、貴方達か?』
『はい・・あの、わたくし達は大変申し訳ないことをしたと思っております。』
『それは、わたしではなく、タマキに言うのだな。』
ルドルフは冷たい目で貴婦人達を睨むと、彼女達は一斉に環に向かって頭を下げた。
『タマキ様、あの時は申し訳ないことをしました。』
『顔を上げてください。』
環の言葉に顔を上げた彼女達は、彼がルドルフと同様、冷たい目で自分達を睨んでいることに気づいた。
『わたしは、貴方達にシャンパンを掛けられた事は許しますが、貴方達から掛けられた言葉は決して忘れません。それだけは憶えておいてください。』
環はそれだけ言って貴婦人達に背を向けてルドルフと共に王宮の中へと入った。
『あれだけで良かったのか?』
『ええ。わたしは、自分にされた事を他人へ倍返しするつもりはありません。そんな事をしては、相手と同じところに落ちるだけですから。』
『お前はわたしよりも年下なのに、精神年齢はわたしよりも年上だな。』
『ルドルフ様が子供過ぎるのでは?』
『一言多い。』
ルドルフがそう言って環の額を軽く小突くと、彼はクスクスと笑いながら、ルドルフの額を小突き返した。
『あらあら、仲の良いところを見せつけてくれるじゃないの、二人とも。』
子供達を連れたジゼルはそう言うと、二人の方へやって来た。
『姉上、この子は?』
『この子はアウグステよ。ルドルフ、この子を抱いてくれないかしら?』
『姉上、ご冗談はほどほどにしてください。』
『あらぁ、いいじゃないの。怖がらなくても。』
ジゼルはそう言うと、自分の腕に抱いていた次女・アウグステをルドルフに手渡した。
すると、今まで眠っていた赤子がゆっくりと目を開けて、じっとルドルフを見つめた。
『姉上・・』
『この子、貴方の事を気に入ったみたいねぇ。あらエリザベート、恥ずかしいのかしら?』
ジゼルは自分の背に隠れている長女・エリザベートにそう話しかけると、彼女は恐る恐るルドルフの足にしがみついた。
『ルドルフ、子供達に好かれてよかったわねぇ。』
『あの、姉上?』
『突然で申し訳ないのだけれど、二人の事を暫く見てくれるかしら?これから、わたしレオポルトと久しぶりにデートするのよ、じゃぁ宜しくね~!』
ルドルフの返事を待たずに、ジゼルは二人の娘達をルドルフに半ば押し付けるような形で預けると、そのまま王宮から出て行ってしまった。
『タマキ、助けてくれ。このままでは身動きが取れない。』
『解りました。エリザベートちゃん、こっちにいらっしゃい。』
環はそう言ってルドルフの足にしがみついているエリザベートに優しく話しかけ、自分の方へと行かせようとしたが、彼女はルドルフの足にしがみついたまま大声で泣き出した。
姉の泣き声につられたのか、ルドルフに抱かれているアウグステも泣き出した。
『おい、二人をどうにしかしろ!』
『ここで待っていてください、世話係の女官を呼んで参ります!』
『タマキ、わたしを一人にするな~!』
泣き叫ぶ乳幼児を必死であやすルドルフの姿に、通りかかった者達が訝し気な表情を浮かべていた。
数分後、環と世話係の女官達がルドルフの元へと駆けつけた時、彼は疲労困憊した様子で壁際に凭れかかっていた。
『遅かったな、タマキ。』
『エリザベート様と、アウグステ様は?』
『アウグステの方はわたしの腕の中で寝ているし、エリザベートはわたしの足にしがみついたまま寝ている。』
『あらあら、それは大変でしたね。』
『お前、さっきのは、わざとだろう?』
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