『初めてジゼル様とお会いしましたが、素敵な方でしたね。』
『お前は姉上の恐ろしさを知らないから、そんな呑気な事が言えるんだ。』
帰りの馬車の中で環がそう言うのを聞いたルドルフは、彼にそんな言葉を返しながら眉間に皺を寄せた。
『何だか、向こうに居るのが楽しくて、エリザベート様やアウグステ様と別れたくありませんでした。』
『お前は本当に、子供が好きなんだな。』
ルドルフは環を自分の方へと向かせ、彼の唇を塞いだ。
『ルドルフ様?』
『昨夜、姉上と話をした・・お前の事で。』
『わたしの事で?』
『母上から、手紙を預かった。そこには、本当にわたしが心の底から愛する人が出来たなら、自分は何も言わないと書いてあった。あの人らしくない手紙だったよ。』
『そう、ですか・・』
他人の親子関係に口出ししてはいけないと思い、環はルドルフの話を黙って聞いていた。
『タマキ、お前は父上がお前にわたし付きの女官になるよう命じたのは、母上が父上にそう頼んだ事だと知っていたのか?』
『はい。今までその事を黙っていたのは、ルドルフ様にご迷惑が掛かるからです。』
『迷惑など掛かっていないだろう、おかしなことを言う。』
環の言葉を、ルドルフはそう一蹴すると、環の頬を優しく撫でた。
『ウィーンに戻ったら、ヴァレリーが色々と煩くわたしに付きまとうだろうな。あいつは、お前を独占してばかりいるわたしに対して最近敵意を剥き出しにしているから。』
『ヴァレリー様は、ルドルフ様の事を心配しておられるのですよ。』
環は苦笑しながらルドルフにそう言うと、彼は環にそっぽを向いた。
『お帰りなさい、お兄様、タマキ!』
『只今戻りました、ヴァレリー様、フラン様。』
ルドルフと環を乗せた馬車から王宮の前に停まり、二人が馬車から降りて来たのを見て自分達を出迎えたヴァレリーとフランに、環はそんな挨拶をして彼らに向かって優しく微笑んだ。
『タマキが居なくて、寂しかったわ!』
『わたしも、ヴァレリー様達とお会いできなくて寂しかったですよ。』
『ねぇ、ジゼルお姉様にお会いしたのでしょう?ジゼルお姉様はお元気だった?』
『ええ。お二人に宜しくと伝えて欲しいとおっしゃっておりましたよ。そうだ、ジゼル様からお土産を預かりました。』
『お姉様からお土産があるの?じゃぁわたしのお部屋で一緒に見ましょう!』
ヴァレリーに引っ張られながら、環が彼女と共に王宮の中へと入るのを見たルドルフは、フランの視線を感じて彼の方へと向き直った。
『どうした、フラン?』
『ルドルフ兄様、タマキさんは本当に男なのでしょうか?』
『今更、何故そのような事を聞く?』
『だって、男には全然見えませんから。でも、ルドルフ兄様も女装したら男だと判らないかもしれませんね。』
『フラン・・』
『今のは冗談です、聞き流してください。』
フランはそう言って、ヴァレリーと環の後を追い、王宮の中へと入った。
『フラン、さっきお兄様と何を話していたの?』
『別に。ただルドルフ兄様が女装したら、男だと見破られないかもしれないって言っただけさ。』
『まぁ、そんな事をルドルフ様におっしゃったのですか?』
環がフランの言葉に驚きで目を丸くしていると、ヴァレリーが突然大声で笑い出した。
『ヴァレリー様、どうかなさいましたか?』
『今、お兄様の女装姿を想像したら・・おかしくなって、思わず噴き出しちゃったわ!』
『ルドルフ兄様の女装姿が可笑しいって・・どういうこと?』
『だってお兄様、背が高いのに、ハイヒールを履いたら巨人みたいになるじゃないの!そんな迫力のある女性が何処にいるのかしらって、想像したらつい・・』
『確かに、ルドルフ兄様は190センチも身長があるんだから、ハイヒールを履いたら迫力がありそうだよね。それに、肩幅も広いし、ガッチリとした身体だし・・』
『コルセットでウェストをいくら絞っても、ルドルフ様の逞しい筋肉は隠せませんね・・』
環はフランとヴァレリーとそんな話をしながらそう言っていると、ルドルフの女装姿を想像し、つい噴き出してしまった。
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