それから環はエリザベスと取り留めのない話をした後、彼女と王宮図書館の入り口の前で別れた。
『タマキ、何処へ行っていたの?』
『王宮図書館です。そこで、ブリジット様の妹の、エリザベス様にお会い致しました。』
『ブリジットって、お兄様のドレスをお仕立てになった方よね?その方の妹さんとどんな話をしたの?』
『それは秘密です。』
『狡いわ、タマキばかり面白い話を聞いて!』
ヴァレリーがそう言って拗ねると、環はルドルフの女装姿が映っている写真を彼女に見せた。
『まぁ、これは?』
『先ほどエリザベス様から頂きました。ルドルフ様は何を着ても似合いますね。』
『そうねぇ、ドレス姿はお兄様には似合わないと思いましたけれど、写真を見る限りお兄様が女の方に見えますわねぇ~』
ヴァレリーと環がそんな話で盛り上がっていると、そこへヨハンが通りかかった。
『二人とも、そこで何を話している?』
『お兄様の写真をタマキがブリジット様の妹さんから貰ったのですって。』
ヴァレリーがヨハン大公に写真を見せると、彼は突然腹を抱えて笑い出した。
『どうなさったの?』
『いや・・いつも俺の事を振り回してばかりいるあいつが、この写真ではお上品な貴婦人に見えて、その違いが面白くてつい笑っちまった。』
『まぁ、言われてみればそうですね。』
『お前達、随分と楽しそうだな?』
三人の背後から玲瓏な声が聞こえ、彼らが振り向くと、そこにはプラハを視察中である筈のルドルフが立っていた。
『お兄様、プラハに視察へお行きになったのではなくて?』
『予定より早く終わって、ウィーンに戻って来た。タマキ、背中に何を隠している?』
『いいえ、何も隠しておりませんよ。』
環はそう言うとルドルフから逃げようとしたが、無駄だった。
『こんな物、何処で手に入れた?』
環から写真を取り上げたルドルフがそう言って彼を見ると、環はブリジットの妹・エリザベスからその写真を貰ったと白状した。
『ほう、そうか・・』
『ルドルフ様、彼女を叱らないでやってくださいませ。彼女に悪気はないのですから。』
『わかった。それよりもタマキ、マダム小春からお前がまた体調を崩していると聞いたが、もう大丈夫なのか?』
『はい。お医者様に診て貰ったところ、以前罹った胃潰瘍が再発していると言われました。』
『余り無理をするなよ。』
ルドルフはそう言うと、別れ際に環にメモを握らせた。
環が屋敷に帰ってそのメモを開くと、そこには“今夜9時に、いつものカフェで”というメッセージが書かれていた。
「あんた、こんな遅くに何処かに出掛けるのかい?」
「はい。ルドルフ様に会いに。」
「解ったよ、夜道は危ないから、気を付けて行くんだよ。」
「はい、行って参ります。」
環がルドルフに指定されたカフェへと向かうと、そこにはルドルフとエリスの姿があった。
『久しぶりね。』
『エリスさん、わたしに何かご用なの?』
『ええ。貴方にこの指輪を返そうと思って。』
エリスはそう言うと、バッグからダイヤモンドが鏤められた真珠の指輪を取り出した。
『これ、てっきり失くしたのかと思って、諦めていたのに・・』
『貴方に意地悪をしようとして、エヴァに命じて指輪を盗ませたの。貴方に返そうと思って屋敷に行ったのだけれど、出産でそれどころじゃなかったから、結局返せなかったの。だから、皇太子様にお手紙を書いてわざわざ貴方に指輪を返しにここに来たって訳。』
『有難うございます、エリスさん。』
『礼を言われるような事はしていないわ。それよりも貴方、好きでもない男と結婚したのですってね?』
エリスはそう言うと、環を睨んだ。
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