ルドルフ達が修道院へと向かうと、そこは既に炎と煙に包まれていた。
『こりゃぁ、駄目だ。』
『一体誰がこんな事を・・』
村の男達は呆然と燃え盛る修道院を見つめていた時、中から悲鳴が聞こえた。
『誰か中に居るぞ!』
『わたしが行く。』
ルドルフはそう言って近くに居た男の手から水が入った桶を奪い取り、頭から水を被って修道院の中へと入った。
『タマキ、何処に居る?』
ルドルフは煙に咳込みながら、悲鳴がした方へと向かった。
するとそこには、椅子に両手足を縛りあげられた環の姿があった。
『ルドルフ様、どうしてここへ?』
『詳しい話は後だ!』
ルドルフは厨房に置いてあった包丁で環の身体を縛めている荒縄を一気に切り落とした。
『歩けるか?』
『はい。でも、腰が抜けてしまいました。』
『そうか。』
ルドルフは環を横抱きにすると、そのまま燃え盛る修道院から脱出した。
「環ちゃん、無事だったんだね!」
二人が修道院から出て来る姿を見た小春は、そう叫ぶと彼らの元へ駆け寄った。
「姐さん、迷惑をお掛けしてごめんなさい。」
「あんたが無事でよかったよ。それよりも、あんたが武装した男達に拉致されたって聞いて、一瞬心臓が止まりかけたよ。」
小春はそう言うと、環を抱き締めた。
「あんたを拉致した男達は、一体何処にいったんだい?」
「さあ・・ただ、この腐った世を糺す為にロンドンの日本大使館を爆破すると言っていました。」
「何だって、早く止めないと!」
「彼らの行方が判らない以上、彼らを止める方法はありません。」
環は小春にそう言いながら、自分を拉致した男達の血走った目を思い出していた。
彼らはこの世を糺す為にロンドンの日本大使館を爆破する計画を立てていた。
暴力的な行動をとることで、彼らは自分達の正義を実行するつもりなのだろうか。
『タマキ、何を考えている?』
『いいえ。ルドルフ様、ウィーンへ戻りましょう。』
『ああ。』
ルドルフは環の肩を抱き、焼け落ちた修道院の前から立ち去った。
ウィーンの日本大使館を襲撃した男達は、事件から数日後、ドーヴァー海峡を船で渡ろうとしていたところを現地警察に逮捕され、ロンドンの日本大使館を爆破する彼らの計画は潰えた。
しかし、小春とルドルフを拉致した仮面を被った男達の正体と、その消息は不明のままであった。
『年明け早々、酷い目に遭ったな。』
『ええ、本当に。ルドルフ様、仮面の男達は一体何者だったのでしょうね?』
『さぁな。もしかすると、ハインツの遺志を継いだ者達かもしれない。』
ルドルフはそう呟くと、暖炉の火を見た。
翌朝、王宮に戻ったルドルフはフランツに呼び出され、彼の私室へと向かった。
『お話とは何でしょうか、父上?』
『ルドルフ、いい加減身を固めろ。』
『またそのお話ですか・・』
『お前はこの国の皇太子としての義務を果たせ。』
フランツはそれだけ息子に言うと、彼に背を向けた。
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