『タマキ、一体何がどうなっているんだ?わたしに解るように説明しろ。』
環と共に馬車に乗り込むなり、ルドルフはそう言って彼を見た。
『実は、ルドルフ様がマイヤーリンクで計画を立てていることを、ヨハン大公様から聞かされ、わたしはその計画に協力することになったのです。』
『大公が、お前に知らせたのか・・まったく、余計な事をしてくれたものだな。』
ルドルフはそう言うと、溜息を吐いた。
『大公様は、貴方がマイヤーリンクで命を絶たれる事を知っていたのでしょうね。だから、わたしにこの計画に協力するように言って来たのだと思います。』
『タマキ、わたしはもうこの国の皇太子でも何でもない、ただの男だ。それでも、お前はわたしを愛することが出来るのか?』
『愚問ですね。わたしが、貴方の地位に惹かれていただけならば、こんな計画には乗ったりはしません。』
環はルドルフの質問にそう答えると、彼に優しく微笑んだ。
『一緒に二人で生きていきましょう、ルドルフ様。』
『ああ、わかった。』
館の中で皇太子の心中現場を偽装したヨハンとエルンストが裏口から外へと出ると、ルドルフと環を乗せた馬車がまだ停まっていた。
『ルドルフ、遅くなって済まなかった。』
『もう偽装工作は終わったのか、大公?』
『あぁ。エルンスト、汚れ仕事をさせてしまって済まなかったな。』
『いいえ。わたしも共犯者ですから、あれくらいの事をしないと。ルドルフ様、タマキ様とお幸せに。』
『有難う、エルンスト。長い間わたしを支えてくれて有難う。エリザベス達に宜しくと伝えてくれ。』
ルドルフはそう言うと、エルンストと抱き合った。
『では、わたしはこれで失礼致します。』
エルンストは袖口で慌てて涙を拭うと、そのままウィーンへと荷馬車で戻った。
『お帰りなさい、貴方。計画は上手くいったの?』
『ああ。エリザベス、わたしは皇太子様にお仕え出来て良かったと思っているよ。だけど同時に、もう皇太子様のお傍に居られなくなるのが寂しくて堪らないんだ。』
『それはわたしも同じよ、エルンスト。タマキ様と会えなくなるのが辛いわ。』
帰宅したエルンストはそう言って涙を流すと、エリザベスはそっと彼の涙を手の甲で拭った。
『大丈夫よ、タマキ様ならあの方を幸せにしてくださるわ。』
『そうだね・・今は、二人の幸せを願おう。』
エルンストとエリザベスは、窓から静かに空から舞い散る雪を眺めた。
『陛下、皇太子様がマイヤーリンクでお亡くなりになりました。』
重臣からルドルフの訃報を聞いたフランツは、一瞬顔を強張らせた後静かに目を閉じた。
(ルドルフ、お前はこれから、自由に生きていけ・・)
『陛下?』
『葬儀の準備をしろ。』
『かしこまりました。』
一人息子の突然の死に、エリザベートは深く嘆き悲しみ、狼狽えた。
『ルドルフが、どうして・・』
嘆き悲しむ母の姿を傍らで見ながら、マリア=ヴァレリーは母親同様婚約者の胸に顔を埋めて泣き崩れ、シュティファニーは突然の夫の死に涙を堪えていた。
そして、彼女とルドルフの一人娘・エルジィは何故父親の姿が居ないのかが解らず、落ち着かない様子で周囲を見渡していた。
『お母様、お父様は何処?』
『エルジィ、よくお聞きなさい、貴方のお父様は天国に逝かれたのよ。』
叔母がそう言って自分を抱き締めてくれたが、エルジィは父親が亡くなった事が実感できなかった。
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