※BGMと共にお楽しみください。
『嘘よ、そんなの。お父様は自殺したから天国に逝けないって、お母様がおっしゃっていたもの。』
『そんな事はありませんよ。エルジィ様、貴方に渡したい物があって来ました。』
環はエルジィにそう言うと、ルドルフのハンカチと自分の懐剣を彼女に手渡した。
『これは、お父様のハンカチ・・』
『エルジィ様、この懐剣は、災難から貴方の事をお守りする事でしょう。どうか、お父様の代わりにこの国を守ってくださいね。』
『タマキ、何処かへ行くの?』
『ええ。エルジィ様、約束ですよ。』
『わかった。』
エルジィがそう言って環を見ると、彼はエルジィに優しく微笑み、彼女に背を向けて去っていった。
『エルジィとは会えたか?』
『ええ。エルジィ様は、貴方が急に居なくなってしまわれて、悲しんでおいででした。貴方の代わりにこの国を守ってほしいと伝えました。』
オルト城へと向かう馬車の中で環はそう言うと、隣に座っているルドルフを見た。
『エルジィには、済まない事をしてしまったな・・』
『エルジィ様は、貴方の代わりにこの国を守ってくださいます。貴方の娘ですから。』
『そうか・・それを聞いて安心した。』
ルドルフは馬車の窓から、次第に遠ざかってゆくバート・イシュルの風景を眺めた。
『エルジィ、今まで何処に行っていたの?』
『森を散歩していたの。余りにも日差しが気持ちがいいから、昼寝をしてしまったの。』
そう言った姪の首に、環の懐剣が提げられている事に気づいたヴァレリーは、彼がエルジィに会いに来たことを知った。
『エルジィ、怒らないから森で誰と会ったのかわたしに話してくれる?』
『タマキに会ったの。タマキからこのナイフを貰ったわ。タマキは、このナイフが災難から守ってくれる物なんだって言っていたわ。』
姪の話を聞きながら、ヴァレリーは兄が生きていることを知った。
一方、オルト城に着いたルドルフと環は、ヨハンの到着を待っていた。
『遅くなって済まなかったな、お二人さん。』
『大公、ウィーンの様子はどうだった?』
『あれから一年も経つから、漸く落ち着きを取り戻してきたぜ。それよりもルドルフ、ひとつお前に伝えないといけないことがある。』
『何だ?』
『俺は皇籍から離脱することに決めた。お前が居ない宮廷に居る意味がないからな。』
『そうか。皇籍から離脱してどうするつもりだ、大公?』
『南米でも行って、そこで第二の人生を送るかな。』
『そうですか。大公様、ミリさんとはどうなさるおつもりなのですか?』
『あいつには長い間待たせたから、幸せにしてやらないと捨てられそうだ。タマキ、これから大公と俺を呼ぶのは止めろ。ルドルフが皇太子ではなくなったように、俺もハプスブルクの大公じゃなくなる。』
『では、何とお呼びすればいいのです?』
『ヨハン=オルトと呼んでくれ。暫くは慣れないだろうが、そのうち慣れてくるだろう。』
『解りました。』
ヨハン=サルヴァトールは皇籍を離脱し、ミリと共に船で南米へ向かうことになった。
『ここでお別れですね、大公様。』
『おいタマキ、もう大公と呼ぶなと言っただろう?』
『申し訳ありません、まだ慣れなくて・・』
『いいじゃないの、ジャンナ、そんな事くらいで怒らないの。タマキさん、ルドルフ様とお幸せにね。』
『ミリさんも、大公様と幸せになってくださいね。』
港でヨハンとミリと別れたルドルフと環は、船で日本へと向かった。
『ねぇジャンナ、気づいていた?さっき港でタマキさんの隣に居たルドルフ様、穏やかな顔をしていたわ。』
『あいつは漸く、安息の地を見つけたんだな。まぁ、俺はお前の隣が安息の地だけどな。』
『ふふ、そんな事を言われると照れるわね。』
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