12月20日、英国大使館でクリスマスパーティーが開かれ、環とルドルフはそのパーティーに出席し、それぞれ友人達と談笑した。
『貴方は素敵な奥様を持って幸せですな。』
『そうでもありませんよ。家の中の権限は、妻が握っておりますし、小遣いも決められています。』
『はは、それは肩身が狭いですな。』
ルドルフがそんな冗談を友人達と言い合っていると、そこへ大杉弁護士がやって来た。
「おや、また会いましたね、ルドルフさん。」
「大杉さん、何故貴方がここに居るのですか?」
「わたしもこのパーティーに招待されましてね。あれが、麗しの奥様ですか。」
大杉弁護士の視線は、ルドルフからアリス達と談笑している環の方へと移った。
「妻には手を出すな。」
「解っていますよ、わたしはそんなに愚かではありません。」
そう言って不敵な笑みを口元に浮かべ、自分に背を向けて立ち去る大杉弁護士の背中が見えなくなるまで、ルドルフはそれを睨みつけていた。
「ルドルフ様、あの方は?」
「大杉衛といって、うちの会社の近くに法律事務所を構えている弁護士だ。やたらわたしに絡んできて、参っているよ。」
「そうですか・・余り相手にしないほうがよさそうですね。」
「ああ。」
英国大使館のパーティーから帰宅したルドルフと環が自宅の居間に入ると、ソファに寝ている菊の姿があった。
「お二人とも、お帰りなさいませ。」
静がそう言って二人を出迎えると、ちらりとソファで眠っている菊の方を見た。
「菊お嬢様は、お二人が帰られるまで起きていたいとおっしゃられて・・いつの間にか眠ってしまわれたようです。」
「まぁ、そうなの。しょうがない子ね。」
環は静の話を聞いて苦笑しながら、菊を抱き上げて彼女を寝室へと運んだ。
「菊はもう寝たのか?」
「ええ。わたし達が帰るまで待っていたのですって。」
「三人でクリスマスパーティーがしたかったんだろうな。明日は休みだから、三人だけでクリスマスパーティーをしよう。」
「ええ、そうしましょう。」
翌日、ルドルフと環は菊と三人でささやかなクリスマスパーティーを開いた。
「菊、少し早いけれどクリスマスプレゼントだよ。」
「有難う、お父様!」
ルドルフからプレゼントが入った袋を受け取った菊が袋の中身を取り出すと、そこにはシュファイフのテディベアが入っていた。
「うわぁ、シュタイフの熊さんだ!」
「大切にするんだよ。」
「うん!」
その日、菊は寝るまでルドルフから贈られたテディベアを離そうとしなかった。
「菊は相変わらずお転婆だね。小学校に来年入学することになっているというのに、困ったものだ。」
「まぁ、そのうち落ち着くでしょう。」
環はそう言って苦笑すると、遊び疲れてソファで寝てしまった菊を見た。
年が明け、ルドルフと環は菊を連れて近所の神社へ初詣に行った。
「お父様、どう、似合う?」
真新しい振袖を環に着付けて貰い、菊はそう言ってはしゃぎながらルドルフの前に立った。
「似合っているよ。」
「さぁ菊、はしゃいでいないで早くお参りを済ませましょう。」
「は~い!」
初詣を済ませた三人は、環と静が作ったお節に舌鼓を打った。
「これが日本の正月の過ごし方か。こういう過ごし方もいいな。」
「そうでしょう。」
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