「アレクサンドラさん、部活は何処に入るおつもりなの?」
「まだ考えていないわ。」
「あら、馬術部に入ってくださいな。」
「狡いわ、貴方だけ抜け駆けなさるなんて。アレクサンドラ様、是非我がテニス部に・・」
マルグリッテが教室から出て行った後、すぐさま教室に上級生達が入って来て、アレクサンドラを取り囲んだ。
「皆さん、その位にしておいた方が宜しいのではなくて?アレクサンドラさんが可哀想よ。」
アレクサンドラの様子を見かねた一人の女子生徒がそう言うと、上級生達は諦めの表情を浮かべながら教室から出て行った。
「有難う、助かったわ。」
「気にしないで。最近部活に入る人が居ないから、皆さん必死なのよ。ヘレンよ、宜しく。」
「アレクサンドラよ。」
アレクサンドラはヘレンと出逢い、彼女が所属するラクロス部に入部することになった。
「アレクサンドラ、上手いわね。」
「そうかしら?わたし、身体を動かすことが大好きなの。」
「わたしもよ。スポーツをしていると、ストレスを解消出来るからいいわね。」
「そうね。」
運動場でアレクサンドラがヘレンと準備体操をしながらそんな事を話していると、背後から鋭い視線を感じた。
「どうしたの?」
「いいえ、何でもないわ。」
「さっさと練習に行かないと、先輩達から怒られるわよ。」
ヘレンと共にアレクサンドラがラクロス部の先輩達の元へと走ってゆく姿を見たルドルフは、静かに運動場から去っていった。
聖マリアアカデミーに入学したアレクサンドラは、ラクロス部で活躍したり、ヘレンをはじめとする友人達と一緒に買い物や映画を楽しんだりと、充実な学校生活を送っていた。
春が過ぎ、ウィーンに初夏が訪れた。
「ねぇアレクサンドラ、もうすぐ貴方のお誕生日でしょう?プレゼントは何が欲しい?」
「何も要らないわ。」
友人達とランチをしていたアレクサンドラがそう言うと、彼女達はクスクス笑った。
「どうしたの?」
「アレクサンドラには素敵なお父様がいらっしゃるのよね?貴方のお父様、時々こっそりと学校に来ては貴方の様子を見にいらしているわよ。」
「まぁ、そうなの?」
「きっと貴方が心配で堪らないのよ。」
友人達からルドルフが時折学校に来ていることを知らされ、アレクサンドラは羞恥で顔を赤く染めて俯いた。
「じゃぁ、また明日。」
「ええ、また明日。」
校門の前でヘレン達と別れたアレクサンドラが徒歩でホーフブルク宮へと戻ろうとした時、ルドルフを乗せた車が彼女の前に停まった。
「アレクサンドラ、もう学校は終わったのかい?」
「はい、お父様。あの、お話ししたいことがあるのですけれど・・」
「余り学校にわたしの様子を見に来ないでください、恥ずかしいです。」
「解った。」
アレクサンドラからそう注意されたルドルフは、その日以降彼女の様子を見に学校へ行くのを止めた。
「ねぇ、貴方のお父様、学校に来なくなったわね。」
「学校へ来て様子を見に来るのは恥ずかしいから止めてって言ったのよ。」
水泳の授業が始まる前、学校内にある屋内プールの傍で準備体操をしながら、アレクサンドラがそう言ってヘレンの方を見ると、彼女はアレクサンドラの背後を指した。
アレクサンドラが振り向くと、そこにはルドルフの姿があった。
「アレクサンドラ、お父様の事を許してあげなさいよ。」
「でも・・」
「過保護なのは、わたしの父親も同じよ。」
プールを見渡せる観覧席の長椅子の上に腰を下ろしたルドルフは、食い入るようにアレクサンドラの水着姿を見た。
長いブロンドの髪は競泳用の帽子の中に隠れて、セクシーなうなじが露わとなっていた。
そして水に濡れた水着が、彼女の身体のラインを浮き上がらせていた。
その姿を見ているうちに、ルドルフは急速に股間に熱が集まるのを感じた。
娘の水着姿を見て欲情するなど、父親失格だ―ルドルフは自己嫌悪に陥りながら、その場を後にした。
(おかしいわね、確かにここに干した筈なのに・・)
首を傾げながらアレクサンドラが寝室で休もうとした時、誰かが部屋のドアをノックした。
「アレクサンドラ様、お休みでいらっしゃいますか?」
「いいえ、今寝ようと思っていたところなの。ロシェクさん、何かあったの?」
「ルドルフ様が、寝室で苦しそうにしておられて・・中の様子を確かめようにも、鍵が掛かっていて・・アレクサンドラ様、どうか・・」
「解ったわ、ロシェクさん。」
ロシェクからルドルフの寝室の鍵を受け取ったアレクサンドラが彼の寝室へと向かうと、確かに中からルドルフの何処か苦しそうな呻き声が聞こえて来た。
「お父様、どうかなさったのですか?」
扉の外からアレクサンドラはそうルドルフに向かって呼び掛けたが、中から返事がなかった。
寝室の扉の鍵を開けてアレクサンドラが中に入ると、ルドルフは寝台の中で浴室に干していた筈のアレクサンドラの水着を抱いて自慰に耽っていた。
「お父様、一体何を為さっているのですか!」
アレクサンドラの厳しい声を聞いて我に返ったルドルフは、熱で潤んだ瞳で彼女を見た。
「アレクサンドラ、来たのか。」
「“来たのか”じゃないでしょう!どうして貴方がわたしの水着を持って・・」
「黙れ。」
ルドルフは少し苛立ったような口調でそう言った後、アレクサンドラの唇を塞いだ。
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