「それで、君はこれからどうするつもりだ?」
「シュティファニーとは離婚するつもりです。あんな事があった以上、彼女はわたしとはもう一緒に暮らしたくないでしょうから。」
「馬鹿な事を言うな!君の所にシュティファニーを嫁がせたのは、同盟を結ぶためだ!」
「貴方、落ち着いてくださいませ。シュティファニーにとって、皇太子様との離婚が一番の最善策の筈・・」
「黙れ!国家の事を何も解っていない女が偉そうにわたしに意見するな!」
「申し訳ありません・・」
夫からそう怒鳴られたマリー=アンリエットは、そう言って俯いた。
「皇帝陛下、貴方も皇太子様と同じ思いなのですか?」
「それは・・」
「陛下、皇太子妃様の意識が戻りました。至急病院へおいでください。」
「解った。ルドルフ、離婚の事はお前の口からシュティファニーに伝えろ。」
「はい、陛下。」
「待て、わたしは離婚など認めんぞ!」
レオポルド二世はそうルドルフに怒鳴って部屋から出て行こうとする彼の肩を掴もうとした時、突然視界が歪んでその場に蹲った。
「貴方、しっかりなさって!」
「誰か、医者を呼べ!」
怒りの余り、レオポルド二世は血圧が上がって失神してしまったのだった。
「陛下、申し訳ありません。」
「謝るのはこちらの方です。」
ルドルフを先に病院に行かせたフランツは、そう言ってマリー=アンリエットに向かって頭を下げた。
「皇太子様はもう病院に?」
「ええ、向かわせました。今頃、離婚についてシュティファニーに彼が話しているところでしょう。」
「一体どうして、こんな事になってしまったのでしょう?わたしはあの子の結婚には反対していました。ですが主人が強引に縁談を進めてしまって、あの子はわたしと同様、不幸な結婚生活を送ってしまうことになるなんて・・」
そう言ってさめざめと泣くマリー=アンリエットに、フランツは掛ける言葉がなかった。
同じ頃、ルドルフはシュティファニーが入院している病院へと向かった。
「皇太子様、こちらです。」
侍従に案内され、ルドルフが、シュティファニーの病室の中に入ろうとした時、中から何かが割れる音が聞こえた。
「落ち着いてください!」
「嫌よ、死なせて~!」
「誰か、先生を呼んで来て!」
ドアの扉の隙間越しに見えたシュティファニーは暴れ狂い、数人の看護師達によってベッドの上に押さえつけられていた。
「わたしは生きていたくなんてないの、わたしを死なせて~!」
やがてシュティファニーの主治医がルドルフの脇を通り抜けて病室の中に入ると、興奮して暴れているシュティファニーに鎮静剤を打った。
「先生、妻は一体どうなっているのですか?」
「皇太子様、大変申し上げにくいことですが、皇太子妃様は精神のバランスを大きく崩されて、大変不安定な状態になっております。このままだと、退院は見送らなければなりません。」
「いつ妻は良くなりますか?」
「それは、わたしにも解りかねます。」
彼はそう言ってルドルフに頭を下げると、その場から去っていった。
「ルドルフ、シュティファニーには会えたか?」
「いいえ。主治医の話だと彼女は精神のバランスを大きく崩して、退院をするのは当分無理だろうと・・」
「そうか。離婚の手続きはわたしがする。お前は養生しろ、いいな?」
「はい、父上。」
【皇太子夫妻、離婚秒読みか!?】
一週間前、王宮内の自室で自殺を図ったシュティファニー皇太子妃は昨日入院先の病院で意識を取り戻したものの、精神のバランスを大きく崩してしまっているため、退院の目処が立っていない状態だという。
その現場に居合わせた看護師が、我々の取材に応じてくれた。
「彼女が目を覚ますと、意味不明な言葉を叫びながら手辺り次第に物を破壊し、
近くに居た同僚に暴力を振るいました。」
シュティファニー皇太子妃の精神状態が心配される中、ルドルフ皇太子は彼女との離婚手続きを進めているという噂が王宮内で流れている。
シュティファニー皇太子妃が何故自殺を図ったのか、その原因は未だに明らかになっていない。
しかし、皇太子妃付きの女官は、主の自殺未遂の原因について我々にこう語った。
「皇太子様との愛のない結婚生活に疲れ果てて絶望してしまったのではないかと思います。皇太子様は女性とのお噂が絶えない方ですし、女性の噂を聞くたびに皇太子妃様がヒステリーを起こしていましたから。」
離婚騒動について、皇太子側は一切コメントを発表していない。
もし皇太子夫妻の離婚が成立すれば、彼らの一人娘であるエリザベート皇女の親権はどちらが取るのか―今後の動きに注目したい。
(週刊パレス 2016年2月10日号)
皇太子夫妻の離婚騒動が報道されてから、ルドルフはマスコミを避けてウィーンを離れ、バート・イシュルで静養に入った。
「お父様、お気をつけて。」
「アレクサンドラ、わたしが留守の間、エルジィの事を頼む。」
「はい、解りました。」
ルドルフがバート・イシュルへと向かう日の朝、アレクサンドラはエルジィと共に彼を見送った。
「アレクサンドラ姉様、お父様はきっとわたし達の所に帰って来る?」
「ええ、帰って来るわよ。」
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