「副長、斎藤です。」
「どうした、何かあったか?」
「蔵の中で例の男を尋問していますが、一向に吐きません。奴は、土方さんを呼べと言っております。土方さんに話したいことがあると・・」
「そうか・・」
蔵で謎の男を尋問していた斎藤からの報告を受けた歳三は、彼と共に蔵へと向かった。
「漸く来たな、土方。」
蔵に歳三が入って来ると、謎の男は口元に不敵な笑みを浮かべて彼を見た。
「お前ぇは何者だ?何故新選組の屯所に忍び込んだ?」
「それは出来ない・・」
男の目が、歳三から斎藤へと移った。
「斎藤、お前は席を外してくれ。」
「しかし副長・・」
「こいつは逆さ吊りで何もできねぇよ。こいつが妙な真似をしたら俺が斬る。」
「解りました。」
斎藤はそう言うと、隊士達を引き連れて蔵から出て行った。
「さてと、邪魔者は居なくなったし、これでお互いに腹を割って話せるな?」
「ああ。自己紹介が遅れたな、俺は薄井亮。俺が新選組の屯所に忍び込んだのは、あんたに話したいことがあったからだ、土方さん。」
「俺に話してぇ事とは何だ、薄井?」
「あんたの恋人・・沖田総司の事だ。あの人は末期の肺結核に罹っている。このままだとあと数年経ったらあの人は死ぬしかない。」
「そんなの、知っているさ。だが、俺は総司の傍に居てやりてぇんだ。あいつの命がある限り、あいつの傍に寄り添ってやりてぇんだ。」
そう言った歳三の紫紺の瞳から涙が流れた。
「俺なら、沖田総司を救ってやる事が出来る。あんたの恋人を、不治の病から救ってやれるんだ。」
「どういう意味だ?」
「こんな事を話せばあんたは信じて貰えないかもしれないが、俺は未来から来た人間だ。俺が居る時代では、肺結核は薬で治るんだ。」
「お前ぇが未来から来た人間・・だと?」
歳三は疑惑に満ちた目で薄井を見た。
彼の言葉は信じがたいものだったが、薄井と同じように未来から来た千の存在を、歳三は思い出した。
千と同級生だった栗田という少年も、彼と同じ未来から幕末へと来た人間だった。
二人以外にも、未来から幕末に来た人間が居るという可能性は高い。
「単刀直入に言おう。薄井、総司を救える方法はあるのか?」
「ああ。あんたの恋人を俺が未来に・・俺が居る時代へと連れて行く。」
「そんな夢物語みてぇな事が出来る訳がねぇだろうが。そんな嘘を吐いて俺を騙そうたぁ・・」
歳三が腰に帯びている和泉守兼定に手をかけようとすると、薄井が慌てて口を開いた。
「今夜オーロラが京の上空に現れる。その時、時空の扉が開く。」
「今の話、詳しく聞かせろ。」
「わかった。でもその前に、俺を下ろしてくれ。」
歳三は舌打ちし、愛刀の鯉口を切ると薄井の足首を拘束している荒縄を切り落とした。
「お前ぇが言う、“時空の扉”ってのは何だ?」
「俺が幕末に飛ばされたのは、京都でオーロラを観察していた時の事だ。普通オーロラは北米や北欧のような寒い所でしか現れないから、珍しいと思ってカメラで撮影しようとした時、地震に遭った。そして、平成から幕末へと飛ばされた。」
「土方さん、千です。入っても宜しいでしょうか?」
歳三が薄井の話を半信半疑で聴いていると、外から千の声が聞こえた。
「俺の他にも、タイムスリップした人間が居るんだな?」
「薄井、お前ぇの話を俺は完全に信じた訳じゃねぇ。だが、お前ぇがもし倒幕派の人間なら、こんな手の込んだ嘘は吐かねぇ。暫くお前の身柄は俺が預かっておく、いいな。」
歳三はそう言うと薄井に背を向け、千を蔵の中へと招き入れた。
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