イラスト素材提供サイト:薔薇素材Mako's様
「その方が、貴殿の隠し子か?」
歳三達が新八に連れられて局長室に入ると、会津藩士・吉田浩一郎はそう言いながら歳三とアメリアの顔を交互に見た。
「トシ、こちらは・・」
「某は会津藩士の吉田浩一郎と申す。本日こちらへ参ったのは、最近京の街で広がっている噂の真偽を確かめる為である。」
「吉田殿、貴殿は何か誤解をしておられるようだ。ここに居る娘と、わたしは親子ではありません。」
「土方殿、貴殿は江戸でも京でも浮名を流していると、こちらに居る近藤殿が某に話してくれたが・・」
(近藤さん、何で余計な事を言うんだよ?)
歳三が抗議の視線を近藤に送ると、彼は済まなそうな顔をして俯いた。
(済まん、トシ。知っていることを話せと言われたものだから、つい・・)
「娘、名を何と申す?」
「アメリアと申します。」
「土方と並んで座っている所を見ると、まるで実の親子のように見えるな。やはり、噂は確かだったか。」
「暫しお待ち下され、吉田殿。誰かが流布した噂を信じるとは、武士のする事ではございませぬ!」
自分の所為で歳三が不利な立場になってしまったことに気づいた近藤がそう吉田に抗議したが、彼は近藤の言葉を鼻で笑った。
「壬生狼ごときに武士の何たるかを説く筋合いなどない。詮議の日時は追って連絡する故、某はこれにて失礼する。」
吉田はもうこんな場所には居たくないと言わんばかりに、袴の裾を乱暴に払うとそのまま屯所を後にした。
「ったく、俺達を馬鹿にしやがって・・」
「落ち着け、トシ。」
「近藤さん、一体誰がそんな噂を流したんだ?」
「犯人捜しをするのは嫌だが、俺はそれとなく噂の事を平隊士に尋ねてみたんだ。そしたら、噂を流しているのは武田だと・・」
「武田が?」
近藤の口から武田観柳斎(たけだかんりゅうさい)の名を聞いた歳三は、眉間に皺を寄せた。
新選組五番隊組長である武田は、剣技の腕は立つものの、男色家故に隊内外で幾度となく痴情に絡んだ騒動を起こしていた。
「平隊士達の話によると、武田が台所で話をしているアメリア君の姿を見て、トシに瓜二つの顔をしているから驚いていたようなんだ。」
「だから、根も葉もない噂をあいつが広めたっていうのか?」
「ああ。だが俺は平隊士達の話を聞いただけからだな。本人をここへ呼び出して直接話を聞かない事には埒が明かん。」
「そうか。じゃあ俺が直接武田に噂の事を聞いてやるよ。」
歳三はそう言うと、局長室から出て行った。
「あ、副長・・」
「武田は何処に行った?」
「武田さんなら、今巡察中ですが、そろそろお戻りになられる頃かと・・」
「あいつが巡察から戻ったら、副長室に来るように伝えておけ。」
「わ、わかりました・・」
歳三の剣幕に怯えた隊士は、そう言うとそのまま脱兎のごとく中庭から去っていった。
「土方さん、たかが噂如きでカッカし過ぎですよ。」
「その噂の所為で新選組(おれたち)の評判が悪くなったらどうするんだ?」
「元からわたし達に対する京の人々の評判が悪いのはもう慣れっこじゃないですか?今更そんな事を気にしてどうするんです?」
飄々(ひょうひょう)とした口調でそう言いながら、総司は武田率いる五番隊が巡察から戻って来た事に気づいた。
「武田さんが巡察から帰って来ましたよ。もしかして土方さん、武田さんを斬ろうだなんて思っていませんよね?」
「馬鹿、そんな物騒な事を考えちゃいねぇよ。」
総司の言葉を聞いた歳三はそう返して彼に向かって笑ったが、その目は全く笑っていなかった。
作品の目次は
コチラです。
にほんブログ村