病院から出てホテルの部屋へと戻った歳三と総司は、今後の事を話し合った。
「土方さん、もし幕末(むこう)へ戻ったら、わたしはこの子を無事に産むことが出来るでしょうか?」
総司はそう言って不安げな表情を浮かべながら、まだ膨らんでいない下腹を擦った。
「大丈夫だ、俺が産婆を手配してやる。出産は俺の休息所ですればいいし、近藤さんには俺が事情を全部話す。」
「そうですか・・」
総司は歳三の言葉を聞くと、彼に微笑んだ。
「どうした?」
「いえ、こうして土方さんと二人きりでいられる時間が、後どのくらい残っているのかなぁって・・」
「馬鹿野郎、俺よりも先に逝くんじゃねぇよ。」
歳三は総司を抱き締めると、今まで必死に堪えてきた涙を流した。
「鬼の目にも涙、ですね。」
「こんな時に、揶揄(からか)うんじゃねぇ・・」
自分を抱き締めたまま泣く歳三の背を、まるで赤子をあやすかのように総司は優しく掌でぽんぽんと叩いた。
クリスマスシーズンとあってか、千年王城と呼ばれている京の街中は、色とりどりのイルミネーションで美しく飾られていた。
西洋の習慣が日本に根付き、やがてそれが一般的なものとなった事を、尊皇攘夷を叫んでいた連中が見たらどう思うのだろうかと、晋作は一人でそんな事を考えながら歳三達が泊まっているホテルへとタクシーで向かった。
チェックインをする外国人観光客達でホテルのロビーは混雑しており、晋作は自分の順番が来るまで外の喫煙スペースで煙草を吸っていた。
「高杉、ロビーに居ないと思ったらこんな所に居たのか?」
背後から半ば怒りを含んだ声が聞こえて晋作が振り向くと、そこにはまるで苦虫を噛み潰したかのような顔をしている桂が立っていた。
「桂、そんな顔をするな。美男子が台無しだぞ?」
「黙れ。お前、わたしと彼らをここに呼び出して、一体何を考えているつもりだ?」
「それは役者が揃ってから話すよ。」
「役者だと?」
「ああ。」
晋作がそう言ってちらりとホテルの入り口の方を見ると、向こうから駆け足で自分達の方へとやって来る千の姿が見えた。
「すいません、遅くなりました!」
「漸く役者が揃ったところだし、寒い外で話すのも何だから、中で昼飯でも食いながら話そう。」
晋作は自分を睨みつけている桂を気にせず飄々とした口調でそう言うと、千と共にホテルの中へと入った。
同じ頃、歳三達はフロントから電話を受け、エレベーターで17階のカフェレストランへと向かっていた。
「誰なんでしょうね、わたし達を呼び出したのは?」
「さぁな。着いたぞ。」
17階のカフェレストランの中へと入ろうとした歳三と総司は、窓際の席で自分達に向かって手を振っている男の姿に気づいた。
「お~い、こっちだ!」
「千君、どうして貴方がここに居るんです?」
「話せば長くなります。沖田さん、土方さん、どうぞこちらへお掛け下さい。」
晋作の隣に座っている千の姿を見た総司は戸惑いを隠せない様子で、歳三と共に椅子に座った。
「あの、貴方はどなたなのですか?随分千君と親しいようですが?」
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は高杉晋作。もう一人、客人が来るぜ。」
「客人だと?」
歳三がそう言って眉間に皺を寄せながら晋作を睨みつけていると、桂が彼らのテーブルの方へとやって来た。
「済まない、待たせてしまったな。」
「桂・・」
「君は・・」
この作品の目次は
コチラです。
にほんブログ村