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尊徳先生 大学・中庸講話

大学
第1段第1節(経1章)
大学之道、在明明徳、在親民、在止於至善
大学の道は明徳を明らかにするに在り、民に親(あら)たにするに在り、至善に止まるに在り

(二宮翁夜話続編)
【46】翁曰く、学者皆大学の三綱領(かうりやう)と云(い)ふといへども、至善(しぜん)に止(とどま)るの至善とは如何(いか)なるや、明(あきら)かならず。
予はひそかに其(そ)の実(じつ)は二綱領(かうりやう)なるべしと愚考(ぐかう)せり。如何(いか)にとなれば明徳(めいとく)を明かにするは道徳(だうとく)の至極(しごく)なり、民(たみ)を新(あらた)にするは、国家経綸(こくかけいりん)の至極(しごく)なり。其(そ)の上に至善に止(とどま)るといへども明々徳と新民との外に至善とさす物(もの)はあるまじと思へばなり。仍(よ)って三綱領(かうりやう)と云(い)ふといへども其(そ)の実(じつ)二綱領(かうりやう)と心得て可(か)なり。

(訳)尊徳先生はおっしゃった。儒学者は皆「大学」の三綱領というけれども、「至善に止まる」の至善とはどのようなものか明らかではない。私はひそかにその実は二綱領であろうと愚考している。なぜかといえば明徳を明らかにするは道徳の究極である。民を新たにするのは、国家を経営する究極である。その上に「至善に止まる」というけれども、「明徳を明らかにす」と「民を新たにする」とのほかに至善とさす物はあるまいと思うからである。だから三綱領といっても実際には二綱領と心得てよい。

(二宮大先生御説徳聞書略)
【1】明明徳の語を聞て、直々隣より鍬をかりたなら直に畑を打ち、肥桶をかりたなら、直々畑へ運びかけ、是則かりたる道具にても明らかにする也。それを口にて計り云て行ぬは、鍬をかりて遣らず捨置、其内に隣から取に来られて、不行しまふ、つまらぬこと多し。

(訳)大学の「明徳を明らかにするに在り」の言葉を聞いたら、いだいま隣から鍬を借りたならば、すぐに畑を打ち、肥(こえ)桶を借りたならば、すぐに畑へ肥えを運んで畑へかける。これがすなわち借りた道具でも明らかにするということなのだ。それを口にばかり言って行なわないのは、たとえば鍬を借りても使わずにほおっておくようなものだ。そのうちに隣から返してくれと取りに来られて、行わないでします。世の中にはそのような、実行しないで口ばかりのつまらないことが多い。

(報徳教示略聞記)
明徳を明らかにするとは聞きて直ちに明らかに鍬を借りたら直に畑を掘る也。糞(コイ)桶を借たら直に畑へ持出る也。借用いてさえ用に立つ。教聞たはもろうたのじゃ、夫を口で計言て行わぬは、鍬を借りて遣らずに其庭の角へなげ込て置如し。遣わぬ前に取に来るが如し。

(二宮尊徳先生語録巻3)
【191】孔子曰く。大学の道、明徳を明らかにするに在り。民を親(あらた)にするに在り。至善に止まるに在りと。これを田畝に譬う。明徳物欲の蔽う所と為る。なお蕪田のごとく明徳を明らかにする。なお開蕪のごとし。蕪田を開き、米粟を産する。これ明徳を明らかにするなり。その産粟を得るや、その半を食みその半を推し、開墾循環以て荒蕪を挙ぐ。これ民を親(あらた)にするなり。その開墾と推譲と、万世易うべからず。これ至善に止まるなり。

(訳)孔子は「大学の道は、明徳を明らかにするにあり、民を新たにするにあり、至善に止まるにあり」と言った。これを田畑にたとえれば、明徳が物欲に覆われているのは、荒地ができたようなものであり、明徳を明らかにするのは、荒地をひらくようなものである。そして、その産米を得たならば、その半ばを食って半ばを譲り、くりかえし開墾して荒地を起させてゆく、それが「民を新たにする」ということである。そして、この開墾と推譲の道は、万世までも変わるべきではない。これが「至善に止まる」である。

(二宮翁夜話巻の2)
【21】弘化元年八月、其の筋より日光神領荒地起し返し方申付ける見込の趣(おもむき)、取調べ仕法書差出すべしと、翁に命ぜらる。予が兄大沢勇助出府し恐悦を翁(をう)に申す。予随へり、翁曰く、我が本願は、人々の心の田の荒蕪(くわうぶ)を開拓して、天授の善種、仁義礼智を培養して、善種を收獲し、又蒔返し蒔返して、国家に善種を蒔弘むるにあり。然るに此の度の命令は、土地の荒蕪の開拓なれば、我が本願に違へるは汝が知る所ならずや。然るを遠く来つて、此の命あるを賀すは何ぞや、本意に背きたる命令なれど命なれば余儀なし、及ばずながら、我輩も御手伝ひ致さんと、云はゞ悦ぶべし、然らざれば悦ばず。夫れ我が道は、人々の心の荒蕪を開くを本意(ほんい)とす。心の荒蕪一人開くる時は、地の荒蕪は何万町あるも憂ふるにたらざるが故なり、汝が村の如き、汝が兄一人の心の開拓の出来たるのみにて、一村速かに一新せり。大学に、明徳を明(あきらか)にするにあり、民を新(あらた)にするにあり、至善に止(とどま)るにありと、明徳を明にするは心の開拓を云ふ、汝が兄の明徳、少し斗(ばか)り明になるや直(ただち)に一村の人民新(あらた)になれり、徳の流行(りうこう)する、置郵(ちいう)して命を伝ふるより速(すみやか)なりとは此の事なり。帰国せば早く至善に止まるの法を立て父祖の恩に報ぜよ、是れ専務の事なり。

(訳)弘化元年8月、幕府より日光神領の荒地を復興するよう申しつける見込みの趣意書を、調査して仕法書を差し出すよう、尊徳先生に命じられた。私(福住正兄)の兄の大沢勇助は江戸に出て、お悦びを尊徳先生に申しあげた。私は先生に随っていた。
尊徳先生はおっしゃった、「私の本願は、人々の心の田の荒蕪(こうぶ)を開拓して、天から授った善種である、仁義礼智を培養して、善種を收獲し、また蒔返し蒔返しして、国家に善種を蒔き弘むることにある。それであるのにこのたびの命令は、土地の荒蕪の開拓であるから、私の本願と違っているのはあなたの知るとこれではないか。
そうであるのに、この命があるのを喜ぶのはどうういうことか。本意に背いた命令ですが、命令であればやむをえません。及ばずながら、わたくしもお手伝いいたしましょうと言うのなら悦びもしよう。そうでなければ悦ばない。私の道は、人々の心の荒蕪を開くことを本意とする。心の荒蕪一人開ける時は、土地の荒蕪は何万町あっても憂えるにたりないのだ。あなたの村のように、あなたの兄一人の心の開拓ができただけで、一村が速かに一新した。大学に、「明徳を明らかにするにあり、民を新たにするにあり、至善に止まるにあり」という。明徳を明かにするとは、心を開拓することをいう。あなたの兄の明徳が、少しばかり明らかになるや、すぐに一村の人民が新(あら)たになったではないか。「徳の流行(りゅうこう)するのは、置郵(ちゆう)して命を伝えるより速やかである」(「孟子」公孫丑・上:徳が人々に伝わっていくのは、命令が飛脚で伝わっていくよりも速い。)というのはこのことである。帰国したら早く至善に止まるの法を立てて父祖の恩に報じなさい、これが専務する事である。」


(報徳秘録)
【49】貧者常に心卑(ひく)きにあり。故に富に至るの業立ず。若仁人あつて是を憐み、是に鍬を与れば、悦んで又其柄を請ふ。与之れば又従て鎌を請ふ。之れを与れば又器財を請ふ。或は田圃を増さんと欲し、或は居を新たにせんと欲し、其所求更に厭ことを不知。其まま置之は、止を不得して貧に居る。之を救ひば、忽ち謝語畢(をわ)らざるに、其他を求めて息まず。故に普く其求に応ずれば、従て奢り従て窮す。恵者も於是退き、何ほど救助すと雖も不立と云て、是を錯く、是恵者も益なく、貧者固より窮を免ることなし。曰、如何せば両全の道あらん。曰、貧者の弊は分に安ずること不能、常に不足を憂ひて専ら求めて不止。苟も有得ば、乍ち分度をこし、又分外を望む、故に骨を労し、自分より生ずる者を以て勤むれば、悉く其丹精に因て富に至るの理を示し、其者自得せば、是家を作らんとして、土台先づ立たるが如し、土台不立れば家屋を作るも益なし。貧者の分に安ずる時は其根立たるなり。根立つて而後之れを恵む時は、弥恩を頂ひて其富を得ること疑なし。是恵而不費之謂にして、又知所先後之謂なり。

(訳)貧者は常に心が卑しいところにある。だから富に至る行いが立たない。もし仁人があってこれを憐れんで、これに鍬を与えれば、喜んでまたその柄を求める。これを与えればまた次には鎌を求める。これを与えればまた家財を求める。あるいは田畑を増そうと望み、あるいは家を新築しようと望み、その求めるところに一向に厭くことを知らない。そのままこれをほおっておけば、止まることを得ないで貧にいる。これを救えば、すぐに感謝の言葉を言い終わらないうちに、その他を求めてやまない。だからあまねくその求めに応ずれば、したがって奢りがつのってきて困窮する。恵む者もここに退いて、どれほど救助しても立たないと言って、これを救助することをやめてしまう。これは恵む者も益がなく、貧者ももとより困窮を免れることはない。
「どのようにすれば両全の道があろうか。」
「貧者の弊害は分に安んずることができず、常に不足を憂えて専ら求めてやまず。幸いに得ても、たちまち分度を超し、また分外を望む、だから一生懸命勤め、自分から生ずる者を勤めれば、すべてその丹精によって富に至るという道理を示し、その者が自得すれば、この家を作ろうとして、土台がまず立つようなものだ。土台が立たなければ家屋を作っても役に立たない。貧者がその分に安んずる時にはその根が立つということだ。根が立ってその後にこれを恵む時には、いよいよ恩を頂いてその富を得ることは疑いがない。これが恵んで費えずということで、また先後を知るということだ。」


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