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――<木谷ポルソッタ倶楽部>――――――――――――――――――――
■久保先生の涙~2■ ――――――――――――――――――――――――<2007/2/6>――― 医大を卒業して晴れて医者になった時、久保先生は三十歳を過ぎていた。 医者になっても戸惑いの日々ばかりだった。 まずは神奈川県の大学病院に勤めることになった。 「医者と言っても新米だからね。 それはそれは忙しかったよな」 久保先生はカーディガンを羽織った。 夕陽が落ちると、ドイツの田舎は急激に温度が下がる。 「赤ワインでも呑もうか」 私は部屋の冷蔵庫からワインを取り出した。 昼間、ホテル近くのスーパーで買った安物だ。 つまみは久保先生が関西空港で買っていたナッツとスルメだ。 「毎日、深夜の二時過ぎに帰宅してね。バタンと倒れて寝るだけだ。 寝たと思ったら、早朝六時に出勤する日々だったね。 自分の腕さえ上がればいいと、夜勤など何でもやった。 ただただ、とにかくむしゃらに働いていたよな」 慌ただしい日々を過ごしていた久保先生は初めて患者を受け持つことになった。 大学病院の事務の掲示板に患者の名前と病状が貼られる。 時間に余裕がある医者が名乗り出て担当医となる。 久保先生は掲示板を見た。 女の赤ちゃんの名前が書かれていた。 久保先生は赤ちゃんに会いに病室に出かけた。 女の赤ちゃんはベッドで寝ていた。 「水色のリボンで髪を結わえたことを思い出してしまうよね。 そうそう、青と緑の縦じまの産着を着ていた。 赤ちゃんとは可愛いなと思ったね。 でもね、生まれて間もないのに、 ちっちゃな顔には黄だん症状が出て、頬がやけにこけていた」 赤ちゃんを見た瞬間、久保先生は担当医になると決意した。 「木谷さんよ、目の前に病気の赤ちゃんがいる。 誰でも救いたくなるよな。 自分の腕の未熟さを省みずに担当医になろうと思ったね」 事務室にその旨を告げて自分の部屋に戻った。 書類をつけていた先輩に赤ちゃんの話をし、自分が担当医になったと告げた。 先輩がきつい顔で振り返った。 「教授に話したのか。なんで受け持った。大変なことになるぞ」 先輩は顔色を変えて久保先生を叱かって頭を抱えた。(つづく) ―――――――――――――――――――――――― わたしは墓のなかにはいない わたしはいつもわたしの詩集のなかにいる だからわたしに会いたいなら わたしの詩集をひらいておくれ 「坂村真民詩集」より ――――――――――――――――――――――― ■発 信 者 :木 谷 文 弘 ■木谷ムラマチ計画研究室
最終更新日
2009年11月25日 02時21分16秒
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