GAIA

【四四三】僧親鸞一女子及び蟒蛇を済度す。奇と謂ふべし。然れども人世も亦之に類する者有り、余亦済度の術有り。幕臣齋藤氏采邑辻村源角井藤なる者有り。邑主二人の家産を漁奪せんと欲す。二人之を憂ふ。来り営救を請ふ。余之を諭し曰く、人の世に在るなり。宿因有り。今邑主の漁奪に遇ふ。命なり。且つ世々主恩に浴し、而して避て以て難を免れんと欲す、道に非るなり。汝等速に其の求に応じ、先づ山林を呈し、次に家具を呈し、次に田産を呈し、次に家屋を呈し、悉く進呈し畢て、而して後永休を請ふて、而して来れ。汝の進呈する所の者、余皆之を与ん。汝等疑ふ無く惑ふ無く、必ず此の道を踏め。是れ則ち普門品念彼の理なり。邑主無道と雖も、恐くは取る能はざらん。汝等今此の難に遇ふ。固に之れが宿因有るなり。仮令ひ詐謀を以て之を免るも、子孫必ず自ら亡る者有ん。若し疑惑を懐き、此の道を踏まざれば、則ち邑主の滅する所と為るや必す。二人服して而して退く。藤乃ち之を踏む。而して難に免る。田宅故の如し。源之を踏む能はず。或は詐謀を設け、或は官威を仮り、以て其の難を免んと欲す。遂に籍没する所と為る。而して邑主も亦甲府に放る。蓋し哀むべきなり。余邑主を諭すに縁無し。故に二人を諭す。親鸞一女子及び蟒蛇を済度するの理と一般。是れ則ち仏法の奥旨、如来の秘訣、普門品念彼、心経能除諸苦の理なり。二三子、肝に銘じ忘るゝなかれ。

　 僧そう親しん鸞らん一いち女ぢよ子し及および蟒ばう蛇じやを済さい度どす。

　　余よ亦また済さい度どの術じゆつ有あり。 

　　 汝なんぢ等ら速すみやかに其その求もとめに応おうじ、悉ことごとく進しん呈ていし畢をはつて後のち永えい休きうを請こふて来きたれ。

　　 汝なんぢ等ら疑うたがふ無なく、必かならず此この道みちを踏ふめ。