【七】相馬侯日光祭田再復の方法に献金す

2016年05月23日

【七】相馬侯日光祭田再復の方法に献金す

【七】相馬侯日光祭田再復の方法に献金す　

野州(やしう)日光(につくわう)祭田(さいでん)二万石(まんごく)地形(ちけい)高山(かうざん)丘陵(きうりやう)多(おほ)くして平地(へいち)甚(はなは)だ少(すくな)し。土地(とち)磽薄(かうはく)にして曽(かつ)て水田(すゐでん)なし。下民(かみん)雑穀(ざつこく)を以(もつ)て常食(じやうしよく)となす。近年(きんねん)に至(いた)り水田(すゐでん)を開(ひら)くといへども十が一に至(いた)らず。往(わう)昔(せき)以来(いらい)租税(そぜい)甚(はなは)だ軽(かろ)しと雖(いへど)も下民(かみん)貧苦(ひんく)を免(まぬか)れず。天明(てんめい)凶荒(きようくわう)以後(いご)多(おほ)く戸口(ここう)を減(げん)ず。是(これ)を以(もつ)て土地(とち)蕪莱(ぶらい)し、人民(じんみん)弥々(いよいよ)窮(きゆう)せり。幕府(ばくふ)之(これ)を憂(うれ)ひ再復(さいふく)安民(あんみん)の事業(じげふ)を以(もつ)て、二宮(にのみや)先(せん)生(せい)に命(めい)ず。于時(ときに)嘉永(かえい)五癸丑年(みづのとうしとし)二月(がつ)なり。

先(せん)生(せい)時(とき)に疾(やまひ)あり病苦(びやうく)を忍(しの)び登山(とざん)し、周(あまね)く八十余村(よそん)を廻歩(くわいほ)して邑民(いふみん)を教諭(けうゆ)し、勧農(くわんのう)に導(みちび)き善(ぜん)を賞(しやう)し貧(ひん)を恵(めぐ)み、再興(さいこう)の仕法(しはふ)を施(ほどこ)せり。下民(かみん)大(おほ)いに感歎(くわんたん)して旧弊(きうへい)頗(すこぶ)る革(あらたま)り、荒(くわう)蕪(ぶ)を開(ひら)き勤業(きんげふ)に赴(おもむ)けり。是(これ)より先(さ)き弘化(くわうか)元年(ぐわんねん)日光(につくわう)村々(むらむら)再復(さいふく)の策(さく)を献(けん)ずべしとの命(めい)あり。先(せん)生(せい)三ヶ年(ねん)日夜(にちや)心力(しんりよく)を尽(つく)し衰廃(すゐはい)再興(さいこう)の策(さく)を筆記(ひつき)し数(すう)十巻(くわん)を奏(そう)す。是(こ)の故(ゆゑ)に実業(じつげふ)広施(くわうし)の命(めい)あるに至(いた)る。相馬侯(さうまこう)池田(いけだ)大夫(たいふ)を召(め)して曰(いは)く、三郡(ぐん)再興(さいこう)安民(あんみん)の事(こと)を以(もつ)て二宮(にのみや)に任(にん)ぜり。此(こ)の仁術(じんじゆつ)に由(よ)つて国弊(こくへい)大(おほ)いに改(あらた)まり再復(さいふく)の効験(かうけん)既(すで)に顕然(けんぜん)たり。大慶(たいけい)之(これ)に過(す)ぐべからず。今(いま)幕府(ばくふ)先(せん)生(せい)に委(ゐ)するに大業(たいげふ)を以(もつ)てせり。未(いま)だ此(こ)の地(ち)の仕法(しはふ)半(なかば)に至(いた)らず、微力(びりよく)なりといへども報恩(ほうおん)の道(みち)を行(おこな)はざるべからず。汝(なんぢ)夫(そ)れ之(これ)を慮(おもんぱか)れ。大夫(たいふ)命(めい)を受(う)けて退(しりぞ)き諸有司(しよいうし)と此(こ)の事(こと)を議(ぎ)す。有司(いうし)曰(いは)く、国家(こくか)の衰廃(すゐはい)極(きはま)り、上(じやう)下(か)の艱難(かんなん)既(すで)に六七十年(ねん)、天下(てんか)広(ひろ)しといへども他(た)の諸侯(しよこう)を察(さつ)するに、我(わ)が国(くに)の甚(はなはだ)しきが如(ごと)きを見(み)ず。此(こ)の故(ゆゑ)に具(つぶさ)さに艱難(かんなん)の事情(じじやう)を以(もつ)て幕府(ばくふ)に歎願(たんぐわん)し、手重(ておも)き公務(こうむ)を免(めん)じ玉(たま)ふ事(こと)既(すで)に数(すう)十年(ねん)、専(もつぱ)ら三郡(ぐん)再復(さいふく)の道(みち)に上下(じやうか)力(ちから)を尽(つく)すといへども未(いま)だ半途(はんと)に至(いた)らず。領地(りやうち)の荒田(くわうでん)未(いま)だ復(ふく)せず、借債(しやくざい)数(すう)十万(まん)尚(なほ)依然(いぜん)たり。斯(かく)の如(ごと)き時(とき)に当(あた)りて何(なに)を以(もつ)て報恩(ほうおん)を為(な)さんや。若(も)し仕(し)法(はふ)を行(おこな)ふこと多年(たねん)にして旧復(きうふく)の時(とき)に至(いた)らば報恩(ほうおん)の道(みち)も亦(また)尽(つく)すことを得(え)ん。方今(ほうこん)の為(な)し得(う)べき所(ところ)にあらずと。大夫(たいふ)曰(いは)く、然(しか)り各々(おのおの)の言(げん)の如(ごと)し。然(しか)りと雖(いへど)も上下(じやうか)の道(みち)を以(もつ)て論(ろん)ぜば豈(あに)是(これ)至当(したう)の論(ろん)ならんや。天明(てんめい)以来(いらい)六十年余(ねんよ)、国(くに)の廃衰(すゐはい)するものは国(くに)の過(あやまち)にして他(た)の故(ゆゑ)にあらず。幕府(ばくふ)之(これ)を憐(あはれ)み多年(たねん)手重(ておも)の公務(こうむ)を免(めん)ずるものは、阜大(ふだい)の恩(おん)といふべし。然(しか)るに艱難(かんなん)の故(ゆゑ)を以(もつ)て永(なが)く報恩(ほうおん)の道(みち)を思(おも)はずんば、豈(あに)是(これ)れ受恩者(じゆおんしや)の道(みち)ならんや。国(くに)盛(さか)んに民(たみ)富(と)む時(とき)に及(およ)んで報恩(ほうおん)を為(な)す者(もの)、何(なに)の難(かた)きことか有(あ)らん。艱苦(かんく)の中(なか)に処(しよ)して為(な)し難(がた)き事(こと)に力(ちから)を尽(つく)すもの、仮令(たとひ)其(そ)の事(こと)は小(せう)なりといへども報恩(ほうおん)の志(こゝろざし)は厚(あつ)しといふべし。且(かつ)先(せん)生(せい)日光(につくわう)へ仕法(しはふ)開業(かいげふ)の初(はじ)めに当(あた)りて力(ちから)を添(そ)ふる時(とき)は必(かなら)ず其(そ)の事業(じげふ)成(な)り易(やす)かるべし。今(いま)之(これ)を能(あた)はずとして後年(こうねん)を待(ま)つは、仮令(たとひ)後(のち)に幾倍(いくばい)の力(ちから)を尽(つく)すといふとも、安民(あんみん)の事業(じげふ)遅(ち)々(ゝ)に及(およ)ばんこと必(ひつ)せり。報恩(ほうおん)の道(みち)実(じつ)に此(こ)の時(とき)を失(うしな)ふべからず。必(かなら)ず疑惑(ぎわく)を生(しやう)ずることなかれと。

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最終更新日 2016年05月23日 00時38分51秒

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【七】相馬侯日光祭田再復の方法に献金す