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2016年12月03日
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カテゴリ:イマジン
同日同時刻に亡くなった90代老夫婦の深い愛とその人生

「KEEP OUT」と書かれた黄色い規制線が、閑静な住宅街に似合わない--。玄関には白い花束が手向けられ、通りがかりの初老の男性がじっと手を合わせている。話を聞くと、悲しみよりも驚きが勝ったという。

 「先日会った時も元気でしたから。まさか、と。こんな最期があるんですね。不謹慎といわれるかもしれませんが、ひとつの奇跡だと思います」

 11月21日夕刻、東京・板橋区に住む老夫婦、金崎美隆(よしたか)さん(97才)と妻のてるさん(93才)の遺体が自宅で発見された。

 この数日、2階の電気がついたまま外出が途絶え、近隣住人が民生委員を通じて交番に届け出た。鍵はかかっておらず、板橋署員が駆け込むと、パジャマ姿の夫婦が布団の上で眠るように息絶えていたという。

 司法解剖の結果、死因は病死。4日ほど前の同時刻に亡くなったものと見られている。台所の炊飯器はご飯が炊き上がった状態で、食卓には梅干しが用意してあった。統計学上、同日同時刻に夫婦が病死する確率は10億分の1以下といわれる。文字通り共に生き、共に死んだふたりの絆に胸が詰まる。

 ◆毎日、旦那さんに感謝していた

 朝鮮半島で三・一独立運動が勃発し、ガンジーが非暴力不服従運動を始めた1919年に美隆さんは生まれた。

当時、日本人の平均初任給は40円。板橋区常盤台の小さな2階建ての家で、両親と弟の4人家族は赤貧の生活を送ってきた。

 「この辺りは1930年代に、二軒長屋が建ち並んでようやく開けた土地なんです。てるさんが美隆さんに嫁いできたのは、その後くらいじゃないかな。結婚前は銀座でOLをしていたそうです。いつも化粧をきちんとして、服も洗練されていたし、素敵なかたでした。弟さんが独立した後は、長く両親と夫婦の4人で暮らしていたと聞いています。美隆さんは普通のサラリーマンで、一家は質素な生活を送ってきました」(近隣住人)

 美隆さんの両親が亡くなった後、自宅には夫婦ふたりが残された。てるさんが常連だった喫茶店『カフェゆき』の店主・中島輝之さん(64才)が語る。

 「お子さんには恵まれなかったそうです。でも気にした様子はありませんでした。“子供がいなかったから、これまで気楽な生活ができたのよ”って笑っていました。夫婦ふたりきりの生活でしたが、愚痴を言うところは一度も見たことがありません。“掃除や洗濯を手伝ってくれて嬉しいわ”って、いつも旦那さんには感謝していました。そうそう、“美隆さんは字がとってもきれいなんです”と自慢していたっけ」

てるさんは店に来ると、必ず壁側の4人席に座った。注文はホットコーヒーとトースト。大の甘党で、スプーン6~7杯の砂糖を入れ、トーストにもはちみつとシナモンをかけて食べていた。

 「旦那さんは来たことがないんです。なんでも日本茶派だそうで。あくまでウチは、てるさんだけの憩いの場でした。四六時中一緒じゃなく、分けるところは分ける。それも夫婦仲の秘訣だったのかもしれませんね」(中島さん)

 夫婦で行きつけだった銭湯の店主もこう語る。

 「よくいらっしゃってましたけど、ふたり一緒に来たことはないです。いつも別々で。ご主人は2~3年前まで毎日のように来てくれました。黄緑色の風呂桶にタオルと石けんを入れてね。番台のアメは1人1個ってルールなんだけど、ガバッと沢山持って行っちゃうような、マイペースで面白いかたでした」

 てるさんは長く水泳のインストラクターをしていたこともあり、市営プールにもよく顔を出していた。妻の影響か、ある時から美隆さんも水泳を始めている。

 「でも、旦那さんはてるさんとは違うプールに行っていました(笑い)。照れもあったのかな」(夫婦を知る近隣住人)

◆夫の健康が何よりの幸せ

 てるさんは1967年に洗礼を受けて以来、敬虔なクリスチャンでもあった。

 「毎週日曜日には近くの教会の礼拝に参加していました。自分で歩いてこられてね。信徒さんの話では、たまに食事の宅配をお願いすることもあったそうですが、基本的には毎日自分で料理されていたといいます。教会でのイベントで、座りながらできる体操を教えてくださったり、穏やかで親切なかたでした」(同じ教会に礼拝していた信徒)

 人を愛し、慈しみ、労り合うキリスト教的精神は、夫婦生活でもとみに発露されていたという。

 「電球替えるんでも植木を切るんでも、てるさんは何かとシルバー人材センターに頼むんです。お金もかかるでしょう、と聞いたら、“美隆さんがやって怪我したら嫌ですから”って。“美隆さんが健康でいてくれることが何よりも嬉しい”と話していました。あとは何も望んでいない、って。夫を名前で呼ぶこともそうですけど、何より夫のことを心から嬉しそうに話すてるさんの姿に深い夫婦愛を感じました」(別の近隣住人)

 健康で仲の良い老夫婦として知られていた美隆さんとてるさんだが、異変が起きたのは死の直前、11月中旬のことだった。前述の喫茶店店主、中島さんが証言する。

「体力が落ちていて、うちの入り口のドアを開けるのも一苦労でした。顔色もよくなかった。“美隆さんが調子悪くて、今日は家で『おさんどん』しなきゃいけないのよ”って言っていました。旦那さんの不調に当てられたのかな…。彼女自身もだいぶ弱っていました」

 行きつけの銭湯でも、11月から夫婦の姿が見られなくなっていた。同銭湯では区と協力し、第二第四水曜に健康体操の教室を開いており、彼女は初回から皆勤賞だったが、11月は欠席していた。

 周囲の心配が募る最中、21日に遺体が発見--。

 「死後数日発見されなかったことは残念ですが、苦しんだ様子はなかったとのことでした。ふたり安らかに逝ったのだとすれば、せめてもの救いです」(前出・近隣住人)

 夫婦の遺体は火葬され、遺骨はてるさんの教会に預けられるという。

 「教会にもお墓はございますが、キリスト教では“墓地に眠る”とはいいません。お墓への納骨はあくまで通過点です。天に召され、安らかに憩わんことを願い、見送ることが本懐であります」(教会関係者)

 中国の故事成語に「偕老同穴(かいろうどうけつ)」という言葉がある。共に老い、死後は同じ墓穴で葬られることから転じて、極めて強く結びついた夫婦の生涯を意味する。

 板橋の老夫婦は老いと墓穴のみならず、死の瞬間まで共にした。

 ※女性セブン2016年12月15日号





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最終更新日  2016年12月03日 03時06分01秒
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