或残暑の厳（きび）しい午後、
モンクレール ダウン保吉は学校の帰りがけにこの店へココアを買ひにはひつた。女はけふも勘定台の後ろに講談倶楽部（かうだんくらぶ）か何かを読んでゐる。保吉は面皰（にきび）の多い小僧に Van Houten はないかと尋ねた。
「唯今あるのはこればかりですが。」
実際自分の如きは、もし久米と友人でなかつたら、即（すなはち）彼の煽動（せんどう）によつて、人工的にインスピレエシヨンを製造する機会がなかつたなら、生涯一介の読書子たるに満足して、小説なぞは書かなかつたかも知れない。さう云ふ次第だから創作上の話になると――と云ふより文壇に関係した話になると、勢（いきほひ）何時も我々の中では、久米が牛耳（ぎうじ）を執る形があつた。その日も彼が音頭とりで、大分議論を上下したが、何かの関係で田山花袋氏が度々問題に上つたやうに記憶する。
墓地に植ゑた罌粟の花から絶好の鴉片が得られると云ふのはフアレエルの想像の生んだものであらうか？ それとも又上に掲げた支那の俗伝の生んだものであらうか？ 僕は勿論どちらとも断言する資格を持つてゐない。唯この俗伝を生じたのも或は虞美人（ぐびじん）
モンクレール ダウンの血の化して虞美人草となつた話に根ざしてゐるかと思ふだけである。
