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音楽院体験記(ブーローニュ地方国立音楽院)

 私は2003年10月より2004年の7月までブーローニュの地方国立音楽院に通っていました。このページには学校について少し紹介したいと思います。


<学費>
 フランスには国立の音楽院がたくさんあります。そして、ほとんどの音楽院の年間学費は10万円以下に設定されていると思います。ブーローニュは504ユーロでした(1ユーロが130円あたりをさまよってます)。もしブーローニュ市に住んでいたら225ユーロです。この授業料で一年毎週のレッスン、その他の授業がとれるのは日本では考えられませんでした。
 ヨーロッパのいくつかの国はこのように勉強することに国が多大な援助をしてくれるみたいです。


<入試>ーブーローニュ地方国立音楽院の場合ー
ーーーまず入試登録について
 入試の時期は学校によって違うのですが、ブーローニュなどの地方国立音楽院(conservatoire national de region)は9月以降、学校が始まってから行われます。入試締め切りも1週間前位まで受け付けてくれます。ブーローニュは楽器や科によっても9月から11月と、かなり時期が違いました。しかもいいことに、大抵の地方国立音楽院は入試登録前に音楽院内の先生と会える機会を設けています(9月頃)。登録用紙には希望教授を書いて出さなければならないので内部の先生を知っておくことが必要ですし、フランスでは学校に、というより先生のクラスに入るという意識が強く、その先生のクラスに空きがないと入学できないと考えていいと思います。登録用紙提出時に外国人はパスポートとヴィザのコピーに証明写真、切手も提出します。
ーーーレベルと年齢制限
 様々な国立音楽院には子供の初心者からいわゆる国家資格(diplome)のとれるレベルまであり、しかもその中はかなり細かく分けられています。原則的な年齢制限もあり、ちなみにピアノは子供の初心者は9歳まで。一番上のクラスは22歳までです。しかし、ここはフランス。師事したい先生の了解があり、学長にその都度を手紙で知らせ許可を受ければ例外は認められます。
 私が通ったcycle specialiseは年齢制限が22歳で必須2年間、最高3年間在籍でき、卒業すれば国家資格DEM(diplome d'etudes musicales)が修得できるコースでした。
ーーー課題曲について
 課題曲は試験日の5週間前に発表されました。このとき私が受験したレベルはモーツアルトのソナタF-Dur KV533の1楽章とラフマニノフの前奏曲もしくはエテュードから1曲というものでした。フランスは短期間で仕上げなければならない課題曲が大好きです(涙)。
ーーー試験について
 学校のホールにて、ピアノはイタリアのFAZIOLIでした。私はこのピアノが大好きです。入試は日本より断然和やかな感じです。
 舞台に出たら、審査員が『Bonjour,Monsier』から始まり、自分で曲を言わされて、そして、演奏でした。弾き終えた後もお互いに『Merci!』といった感じです。その日は学校で練習室を借りることができました。しかし、アップライトのかなりきてるのばっかりでした。
 発表は2日後くらいに貼り出しでした。正確な人数は覚えてませんが、60人くらいが17、8名になったと思います。私の先生のクラスには2名入学しました。


<授業>
 私は学校にはピアノで登録しました。しかしDEMを収得するには他にソルフェージュ(今フランスでは死語です。正しくはformation musicale)、楽曲分析、室内楽の単位が必要でした。頑張って授業受けました。欠席もしました(涙)。
 各クラスには自分で先生に会いに行き登録しなければなりませんでした。待ってても何もしてもらえないのもフランスに来て学んだことです。

DEMピアノ必須授業
ソルフェージュ
 ピアノ入試後、学校が始まってすぐにレベル分けテストがありました。ショックだったのが、和声記号が私が勉強してきた方法と違ったことです。いわゆる楽典和声(46の和音、2の和音など)に近いものなのですが、まったく分からなかったす。面白いのは、主科実技のレベル関係なしにソルフェージュのクラス分けが行われる点です。なのでクラスの中は年齢がバラバラでした。
 それでもなんとか、diplomeのとれるクラスに入れ、先生に登録のために会いに行きました。各レベルごと週に3、4個クラスが開かれているので、自分にあった曜日、時間そして先生が選べました。すべて週1回2時間のクラスです。宿題がかなりありました。
授業内容ーー聴音)レベルは日本の比にならないくらい優しい(ピアノでするのは)。しかし、オーケストラや室内楽の聴音はめちゃむずい。ーー視唱)今年はフランス作曲家Duparcの歌曲集がテキストでした。ーーリズム視唱)かなり、独特。難しかった。ーー初見視奏)ーー楽曲分析)カデンツや和声、調、形式などの判定。ーースコアリーディング)テキストDebussyの夜想曲。クレ読み。合わせてDebussyの勉強。ーー?)様々な時代様式の音楽を聞いて、その曲について答える。曲聞き当てクイズの上級編!!他にも記譜法など多くのことを学びました。

楽曲分析
 教授は作曲家兼オルガニストのNaji HAKIM先生でした。なかなか素敵な方です。授業は週1回1時間30分、1クラス20名弱でした。先生の著作である2冊の教科書にそって行われました。教科書が高かったことを覚えています。私はよく居眠りをしていました(昔から何も変わらない)。本当にごめんなさい、先生。でも、理論や説明のフランス語は辛かったです。
 フランスでは授業中居眠りする人はいません。そういった所にも彼らのマナー意識の強さを感じました。
授業内容ーー私のクラスでは、日本で言う音楽理論に始まり、様々な時代、様式について勉強しました。先生自身の曲も題材になり本人による講座は興味深かったです。
 それと私にとって特に良かったことは、音楽用語のフランス語を一気に知れたことです。

室内楽
 この一年で特に充実していた授業が室内楽でした。10月より学校がスタートしたのですが、友達も特にいなかったのもあってなかなか登録できませんでした。結局CARTIER-BRESSON先生のお力もあり(彼女は室内楽の方が教えてて長いのです)Daniele BELLIK先生のクラスで勉強できるようになりました。先生が組む仲間を探して下さり、ピアノ四重奏になりました。
 Julien POLI(violon) Julien LO PINTO(alto) Yan VAIGOT(vlcello) の3人とは12月の初レッスンのとき初めて顔をあわせました。3人ともフランス男子でみんな私より1つ年下でした。西洋人は日本人よりかなりふけて見えます!本当にいい仲間に巡り会えたと思います。音楽が大好きで、なによりそれぞれ個性的で魅力のある奴らでしたので週1、2回の練習でも楽しく勉強できました。
 彼らにはフランス語はもちろん、多くのスラング言葉も教えてもらいました。
 ブラームスのA-Durの2楽章に始まり、1楽章。モーツアルトのg-moll(名曲です)の1楽章はかなり勉強できました。彼らのおかげで私は室内楽に魅せられてしまいました。
 BELLIK先生が体調を崩され、4月からはMarie-Paule SIRUGUET先生と勉強しました。彼女は素晴らしい音楽家で、多くの有意義なレッスンが受けれました。先生達には心から感謝してます。


オプション授業
 音楽院には他に自由選択制の授業がたくさん開設されていました。私は初見、エクリチュールの授業に自主的に登録しました。先生がいらしてる日を調べて、直接会いに行って登録します。
 私が登録をした以外にもたくさんクラスが開講されています。やる気があればいくらでも勉強できるシステムはすばらしいと思います。
初見視奏
 Evelyne POTIN先生の授業は本当に有意義でした。もともと先生のクラスは弦楽器の生徒さんに開かれていたのですが、お願いをして伴奏で初見に加わることができました。バイオリンとチェロとの初見を主にしました。たくさんの曲が知れ、また室内学的な楽譜の見方についても勉強になりました。また、楽器を使ってのソルフェージュのレッスンも受けました。初見で移調しながら、ソロを歌う、高度なリズム読み、メモリーなどなど。頭にとてもいい体操でした。 
 このクラスで現代楽譜の読み方をテーマに作曲家の先生とオリジナル曲を勉強する会がありました。すばらしい企画で、ブーローニュの作曲の教授Pierre GROUVEL氏と彼のピアノとヴァイオリンのためのSonate fantasque(奇想ソナタ)を勉強しました。1994年の作品で美しさのある作品です。ぜひいつか日本に紹介したいと考えています。

エクリチュール
 Ecritureとは、和声、対位法、模倣作曲などの作曲入門?の授業です。作曲科とはまた違うので注意。ここでは毎週3人の初級クラスで授業を受けていました。なにせ宿題をこなさないと授業にならなくて大変でしたが面白かったです。対位法は大変興味深く、こればかりしていました。
 まだまだはじめたばかりなので来年度も勉強する予定にしています。

CNSM準備クラス
 これはパリとリヨンの国立高等音楽院の入試にあるソルフェージュのために開かれたクラスです。たまたまecritureの先生が担当だったので私は入試の前一回だけ参加しました。本番前に練習ができてほんとうに良かったです。


<学生生活>
 授業以外の学校生活について。

練習
 私は基本的に家でピアノを練習しました。もちろん学校でもできるのですが、ピアノの状態がひどく、効率が悪いのもありほとんどしませんでした。
 たいへん驚いたことに、ピアノ学生なのに自分の家にピアノを持たないフランス人もいました。地方出身の生徒さんは実家にピアノをおいて、パリに下宿しています。パリの住宅状況を考えたらあり得ることなのですが、彼らは朝から夜10時、学校が閉まるまで練習室で頑張っていました。
 室内楽などは大きな部屋を借りてすることもできました。
 
図書館
 ブーローニュには立派な図書館と視聴覚室がありました。楽譜5冊、CD1枚借りることが出来、便利でした。
 私はレッスンに図書館の楽譜でくる学生をよく見かけました。なにせ、図書館の楽譜たちはなにかしら痕跡が多々あるのです。興味深いような、日本的感覚で良いのだろうか?と思っていました。

学食
 学食にいける日はワクワクしていました。2,6ユーロにて前菜、メインと付け合わせ、デザートにパンとコースなみの昼ご飯でした。おいしかったです(私には!)。
 友人たちの食事のマナーを観察しつつ、よくものを落とす私でした。

コンサート
 年間、先生によっては2回ほどauditionという名の発表会がありました。他にも、自由に参加できる学校主催のコンサート、オケや室内楽のコンサートなどありました。
 発表会は日本と違い『生徒のための経験』が主眼におかれています。普段着や暗譜できていない人でも本人に弾く意志さえあれば受け入れる雰囲気です。
 こちらの学生の演奏が聴ける良い機会でした。

バカンス
 フランスの教育機関はどこでもそうですが、2か月行ったら2週間バカンス、といった感じでメリハリが利いています。はじめはどのように過ごして良いか迷っていたのですが、先生が『1週間はピアノは弾かずにバカンスをとりなさい』と言うものですから!?
 このパターンに慣れ、勉強と休憩を上手くコントロールできるようになってきました。というより、今は必須です!!


<単位認定試験>
 試験はどこの国でもあるんですよね・・・苦しかった思い出です。
 DEM資格のための必須単位の試験など。

ソルフェージュ
 さすが、本場です。試験は3月末よりスタート。楽器での実技試験、口答による試験、筆記の試験と3度に渡る試験試験・・・。しんどかったです。
 楽器での実技試験ーーーピアノ(主科の楽器)を使い、初見視奏、移調、メモリーの3つが実施されたました。2人の審査員の前で試験で、予見ができました。メモリーは最悪にできなかったです。初見と移調は先生の伴奏付きでした(よって2台の演奏)。
 口答実技ーーーピアノ伴奏付き初見視唱、リズム読み2つ(古典、現代)、フルスコアでのクレ読み、歌曲の暗譜演奏(4曲準備をし、当日指定)。審査員は8名位。歌曲は、私が外国人ということで歌詞カードを認めてくれました。しかし4曲も準備するのは大変でした。クレ読みはフランスに来てからはじめたので私には難関でした。大勢の試験官の前で緊張しました。
 筆記試験ーーー3時間におよぶ試験、学校のホールにて。室内楽の聴音、メロディーとバス(和声判定付け)、和音聴音(5音まで)、リズム取り、曲を聴いて様々な判定、スコアリーディング、筆記問題(今年はDebussy)。とにかく集中力との戦いでした。あまりに難しく諦めていました。なにせ問題の意味から調べないといけなかったので・・・

楽曲分析
 この試験も3時間でした。しかし、私にとっては難しすぎませんでした。バッハのフーガの分析とHAKIM先生自身のオルガン曲の分析、考察でした。

室内楽
 モーツアルトのg-mollの1楽章を弾きました。試験前の発表会で不満だったのでみんなぴりぴりしてしまいました。しかし、頑張ったかいあって本番は心から幸せな演奏がで来たと思います。結果もわれわれのグループが満場一致のtres bienを頂けました(唯一打楽器のグループとわれわれの2グループだけでした)。みんなで大喜びでした。


<実技卒業試験>
 6月22、23日、二日間行われました。バロックより1曲、クラシックまたはロマン派より1曲、エテュード1曲、歌手と歌曲1曲、そして1か月前の課題曲バルトークの3つのブルレスケでした。1人30分ずつ時間がとられていました。
 私はバッハのイタリアン協奏曲の1楽章、ショパンの舟歌、同じくショパンのOp10-10、シューマンの女の愛と生涯より1曲を選びました。歌曲はSophieという同門の方がしてくれました。彼女はピアノでいわゆる研究科で在籍しているのですが、半年くらい前に歌の勉強をはじめたらしく先生が頼んでくれました。すてきな声で、本人がピアノばりばりですので楽しかったです。
 当日、運悪く1日目の1番でしたが、今の自分を充分発揮出来たと思います。30分弱といえど曲が多いこともあってリサイタルのような気分も味わいました。いつも本番では緊張と開放感、興奮ですが、やはりいいものです。今回得た課題としてはロマン派のカンタービレの追求です。舟歌には最後の最後まで苦しめられましたので・・・。一生かけて勉強できる曲です。

<余談>
 実技試験の次の日にCARTIER-BRESSSON先生宅にてパーティーがありました。先生のピアノ、室内楽の生徒たちが集まり楽しい夜をすごしました。
 この1年はほんとうにCARTIER-BRESSSON先生のおかげで充実した年になりました。運良く結果と言う形でも良いものになりました。彼女は音楽を本当に愛していると強く感じます。そしてそれぞれの生徒を信頼し勉強を助けることができる名教師だと信じてやみません。
 私はこの名教師と出会え、一緒に勉強出来たことに感謝しています。日本にいる家族、友人、先生方にも。そしてフランスに来ても本当に良い仲間たちに出会えたことにもを幸せを感じます。
 この間の6月に、ブーローニュの学生の曲を学校のコンサートで演奏するチャンスに参加しました。面白い編成の室内楽でした。
 今、私は強く現代曲の演奏活動に興味を持っています。純粋な音楽的価値は判断できないし、私がする意味もないと思います。今生きている自分の証の一つとして、そしてこの活動のもっと大きな意義を感じています。まだ、感じはじめたばかりですがこれを目標に勉強し続けたいと思っています。


 この音楽院体験記は、私がろくに報告もせず、御心配ばかりかけている方々に少しでも様子を伝えたく作成しました。そして今ここでお世話になっている皆様にもう一度お礼申し上げます。ありがとうございました。
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