侍Jumper's

世界一、それも初代王者の栄冠に輝いた王ジャパン。

一夜明けて、夢でないことを確認した。

思えば私のＷＢＣでの戦いは「ここから」始まっていた。

結局、松井秀喜選手にはフラれることになるが、結果的には

イチローがあのような形で引っ張る形になったので、

良かったのかもしれない。

巷ではＷＢＣに出場しなかった日本人メジャー選手の総大将として

「松井批判」が起こり、「イチローファン」と「松井ファン」のレベル

の低いののしりあいがネットで繰り広げられていた。


私は両選手とも好きである。両選手ともずば抜けた野球センスを持ち、

日米の野球史に残る選手となるだろう。

ただ今大会でこのような形になったのは同じ野球選手であろうとも、

目指す方向とスタイルが違う、という事であろう。王監督は松井選手

を四番に添えたかったと思うが、今回のチームとしてはイチロー選手

がイニシアティブを握ることで、一発に頼らない日本の繊細な野球が

功を奏したように思える。

たぶん、両方とも個性が強く、他の選手に与える影響が大きすぎるので、

この短期間であったら「英雄並び立たず」で優勝するための「チーム一丸」という精神は

失われたかもしれない。

松井選手の代わりに四番に座った松中選手も、結局は一生懸命走っていた

し。。（笑）

またイチロー選手が豹変した、あんな感情的な男だったのか！と話題になっ

たが、これは私の見解は少し違う。

イチロー選手が海を渡って数年経ったとき、私のよく知る広告会社の方が、

イチロー選手をＣＭで起用すべく、シアトルまで足を運んで粘り強く交渉

していた頃の話。

何とか契約までこぎつけたが、マネージメントを通じて色々な制約を課せら

れたらしい。とりあえず、イチロー選手に「そそう」がないよう十二分に気

をつけて撮影に臨んだところ、当の本人は至って快活、かなり気を使う男だ

ったらしい。そして心許せる相手ならサービス精神も旺盛だとか。

（まあ、Ｂ型クラブであるから。）

なので、なかなか関係者にはサインしたがらないのに、その時は相当数のサ

インに応じたとのことで、いろいろなサイン入りグッズを見せてもらった。

結局のところ、彼が寡黙になって、マスコミに何も語らなくなったのは単純

な話、根も葉もない野球と関係ないゴシップ記事を書くマスコミに嫌気が差

し、その辺をうまくのらりくらりとする松井選手のようなことはしなかった

ということだけのことのようだ。

なので、どちらかというとマスコミが相手にしてもらえず、情報が無かった

分、「孤高で寡黙」といった偶像がどんどん作られていったのだろう。


まあ、私としてはメジャーリーグの大記録を達成するとなると、やはり何事

も無かったかのようにクールに決めるのが、侍＝三船敏郎＝「男はだまっ

て」の「野武士三段活用」っぽくてイチロー選手にはお似合いかとも思う

が。


確かにメジャーに行く前、イチロー選手ははしゃぐ場面があったし、がんば

ろうＫＯＢＥでオリックスが優勝した時も、今回の片鱗ともいえる「チーム

一丸」を意識していたと思う。

そこであくまで私の個人的な推測なのだが、もしかしたら師である仰木監督

の死が今回の彼を駆り立てたのかもしれない。

私から見て仰木監督は野球の技術練磨だけでなく、「野球人」としてどう社

会に貢献していくか、という事も深く選手に教えていたかと思う。だからこ

そ人を育てることに長けた名将であり、その究極が野茂英雄選手であり、イ

チロー選手であったのだろう。イチロー選手より少し年齢の高い野茂選手は

すでに野球の底辺拡大を目指したＮＯＭＯベースボールクラブを確立して

いる。

今回イチロー選手は仰木監督の死をもってその意思を体現する場所として、

世界最高峰であるＭＬＢ主催のＷＢＣを選んだのではなかろうか。

だからこそ、「マスコミ嫌いだから」といった小さな視点も捨て、選抜され

た個性派集団をまとめあげるべく、偉大な記録保持者・王監督をサポートす

る主将役を買って出たのではないか、と思う。

その結果チームを鼓舞するために感情をむき出しにしたり、チームメートに

声を掛け合ったり、自らがメジャーで会得した全ての血肉を日本代表に注ぎ

混んだのだろう。






最高です。信じられない。ありがとうございます。

正直言ってこんなところに来れるとはイメージできなかった。

本当にみんなすごい。最高でした。

（九回表の決勝打点）それはいいんですよ。

（日本球界への意味は）たくさんの人が見てくれていると聞いていました

し、球場にも足を運んでくれているので、力をもらいました。

たくさんの人に野球って素晴らしいんだと思ってもらえたらうれしい。






優勝直後のイチロー選手の言葉である。

九回表、西岡選手のプッシュバントからチャンスを拡げ、イチロー選手のタ

イムリー＞川崎選手のギリギリの本塁生還。これが無かったら流れはキュー

バにあったので、たぶん昨日は負けていた。そして、あの場面では正直イチ

ロー選手しか打てなかった。

しかし、である。





それはいいんですよ。






言葉が詰まりながら言っていた。

川崎選手はこのプレーの前に中盤でファインプレーをみせながら、お手玉も

二回した。その結果キューバの反撃の糸口を与えてしまったことは否めなか

った。何とかしのいでベンチに帰ってきた時、選手総出で川崎選手を励まし

ていた。それが最終的に日本を救う気迫あふれるプレーにつながったのだろ

う。

それもあったのでイチロー選手は前述の発言をしたと思う。

日本代表チームは一つであり、決して個人プレーだけで頂点を極めたわけで

はない、ということの体現であり、野球というチームスポーツのすばらしさ

の表現だったのであろう。

イチロー選手という人間の高さを感じ取った。

偉大な名将の意思は偉大なプレイヤーにちゃんと引き継がれたと思った。


近鉄の球団存続から端を発し、巨人の人気減少による視聴率低下、子供達の

野球離れ。そして選手年棒の高騰とスター選手のメジャー流出。

日本のプロ野球をめぐる環境は著しく悪化し、問題を抱えていた。それを

少しでも解決すべく、光を当てる大きな役割が今回のＷＢＣの日本代表に

はあったのだろう。それがメジャーという日本のプロ野球の「外」にいるイ

チロー選手には国内にいるどの選手よりも理解しやすかったからこそ、率先

してチームをまとめたとも思われる。

チームが打てないときも、果敢に足を使ってチャンスメイクしていた。二次

リーグまでそれがかみ合っていなかったが、その後はそれがはまった。


日の丸だけでなく未来のプレイヤーへの希望も背負っていたから、

ものすごいプレッシャーだったろう。それはイチロー選手だけでなく、代表

選手・関係者が全員背負っていたように見えた。

だからこそ喜びも大きかったかと思う。

私は大塚選手が最後に討ち取った時、さすがに「ヤッター」と言えなかっ

た。

嬉しすぎて涙が止まらず声が出なかった。

たかだかテレビ見ていた人間がこれなのだから、当の本人達の感じるものは

大きかっただろう。



王監督をはじめ、日本代表チーム・関係者の皆さんお疲れ様でした。

またすばらしい試合をした各国チームもありがとうございました。

これから開幕のペナントレースも楽しみにしています。


追記
あと少しで優勝しそうなとき、プレートアンパイヤーにベンチから出るなと
日本選手が注意され、王さんがいちいち足が出ている選手の足を引っ込めさせていた姿に苦笑した。私が毎年経験する水上スキーのインカレでも全く
同じ光景が見られるからだ。
スポーツは面白い。