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三橋順子の日記

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2009年11月25日 楽天プロフィール Add to Google XML

都留文科大学ジェンダー研究プログラム講演(その2)
[ お仕事(講義・講演) ]    

(続き)

そうしたたくさんの視線の前で「女をする」、女性としての性役割を構築する努力を続けていると、ある日、自分が社会の中で、女として認識され、そう扱われていることに気づきました。

たとえば、化粧品店やブティックに行けば、店員は女性客としての扱いをしてくれます。レディス・メニューがあるレストランならウェーターがそれを勧めてくれます。気楽な居酒屋で飲んでいれば、周囲から「お姐(ねえ)さん」「お姐ちゃん」と呼ばれ、「お兄(にい)ちゃん」と呼ばれることはまずありません。街を歩いていれば、男性が寄ってきてナンパされます。黄色と黒のストライブ、踏切の棒の色で、ちゃんと「危険」を明示しているのに寄ってくるわけです。新宿歌舞伎町のラブホテル街では、男性同士の(ゲイの)カップルは入室お断りのところがほとんどですが、男性と女装者のカップルなら入れてくれます。

つまり、それなりに「doing female gender」していれば、世の中は「女扱い」してくれるのです。

ここで大事なことは、店員やスタッフが、私が女装者であることを見抜いていても、「女扱い」されるということです。どれだけ巧みに女性ジェンダーを演じていても、背の高さや肩幅の広さ、腰(骨盤)の狭さ、喉仏、声などの第二次性徴に基づく身体外形の男性的要素は隠しきれません。そうした要素から身体的には男性であることを見抜かれたとしても、しっかり「doing female gender」していれば、「女扱い」は継続されるのです。ブティックから追い出されたり、レディス・メニューが引っ込められたりすることはありません。

バレる、バレないは、必ずしも重要ではないのです。そこに商業的な接客配慮があることは確かですが、「それなりに女をしていれば、女扱い」という性別認識は現代の日本社会では広く認められる現象です。

こうした現象を通じて、私は、社会の中で女扱いされる、女性として認識されることの重要性に気がつきました。そして、後にそれを概念化して「性他認の獲得」と名付けました。つまり、いくら自分が女性であると言っても、つまり性自認を主張しても、社会がそう認めてくればければ、どうしようもないということです。
性同一性障害の人たちのこれまでの運動は、性自認を主張に偏りすぎ、性他認の獲得への努力が軽視されてきたように思います。

さて、そうやって世の中で「女扱い」されるようになると、それによって自分が女であることが再認識されるようになります。性自認の補強という現象が起こります。わかりやすく言えば「その気になる」、社会の中で女として扱われるから、よりしっかり「女をする」ようになるということです。

とは言え、男性から女性へのトランスジェンダーの場合、どれほど丁寧に「Doing Female Gender」しても、ベースになる身体が女性とは違うわけですから、女性そのものにはなりません。ジェンダー・イメージに微妙なズレが生じます。性同一性障害の人たちは、そのズレに悩み続けるわけですが、私はポジティブに考えて、そのズレこそが、トランスジェンダー特有の魅力なのだと思っています。

さて、そろそろまとめに入りましょう。レジュメにメモしておきました、性自認の自覚 → 性別表現・性役割の構築 → 性他認の獲得→性自認の再確認と補強という流れを、私は「ジェンダー構築の回路」と名付けています。これは、私の男から女へのトランスジェンダーとしての体験から見出したことですが、一般の女性、さらには男性にも言えることだと思います。

少女は、自分が女だと思うから、女ジェンダーをし、それによって社会から女として扱われるから、より女をするようになる。少年は、自分が男だと思うから、男ジェンダーをし、社会から男として扱われるから、より男をするようになる、ということです。

ただ、ここで忘れていけないことは、女性が「女をする」か、あるいは、男性が「男をする」かは、強制されるものではなく、自分で決めることだということです。ジェンダーは押し付けられるものではありません。男性が「男らしく」したい(ただし、女性に抑圧的でない限りですが)、女性が「女らしく」したいのも自由ですが、男性が「男らしく」しない、女性が「女らしく」しないのも自由なのです。ジェンダーの押しつけからの脱却、ジェンダーの自己決定ということです。

では、なぜ「女をする」のか?ということを考えておきましょう。まず一つは「性別標識として」ということです。つまり、ジェンダー記号(身体的性差やファッション)を明瞭にすることによって、自らの性別を社会の中で明示して、それによって、自分の性別と性的魅力を性的対象(性的他者)に示して誘引する、ということです。


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(資料画像5)

まあ、こんな感じですね。わかりやすく言えば、ホステスさん「営業中」ということです。

もうひとつは「自己イメージのために」ということです。有りたい自分のイメージを構築して、アイデンティティを安定させるということです。この場合、ファッションは、必ずしも性的他者に向けられているわけではありません。自分に向けられています。


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(資料画像6)

こんな感じです。これが、今の私にとっての、ありたい自己イメージです。
ちょっと怪しい「着物のおばちゃん」という感じでしょうか。

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(資料画像7)

「ありたい私」というなら、こんなバージョンもあるのですが、これはあまりに現実性がありませんので・・・。

今、ありたい自己イメージということを言いましたが、結局、「女をする」、女性ジェンダーを構築するということは、「ありたい私」を自己表現するための手段、アイテムのひとつだったと言えると思います。

さらに一般化すれば、人生にとって大事なことは、「ありたい私」のイメージをもって、その実現に向けて努力を続けるということだと思うのです。

私にとっての最初の目標は、社会の中で「女をする」ということでした。それが曲がりなりにも果たされたとき、次に関心をもったのが、私と同じように性別を越えて生きている人たち、あるいは過去にそうして生きた人たちのことでした。
具体的に言えば、女装者とその世界、そして女装に生きた先輩たちのことを、きちんと調べて記録し叙述しようと思いました。大袈裟に言えば、それがこんなふうに生まれてきた私という人間の天命、天が与えた役割だと思うようなりました。 だいたい今から12~13年前のことです。

それまでの私は「順子にはネオンが良く似合う」と言われた新宿歌舞伎町のプレイガールでしたが、一転してまじめになります。男性として学んできた歴史学の方法論(文献史学)に加えて、社会学や文化人類学を勉強して、東京新宿の女装コミュニティの研究、次に長い日本の歴史の中を生きてきた性別越境者たちの掘り起こし、そしてそれらを総合した日本におけるトランスジェンダー・スタディーズの構築を目指して、調査・研究・執筆という仕事を積み重ねてきました。

だれも手をつけていない未開の研究分野を開拓するということは、たいへんでしたけども、とてもやりがいのある仕事でした。それに他に誰もやっていない分野を研究すれば、間違いなく「日本の第一人者」になれますから(笑)。

幸い、いくつかの大学や研究機関で私の研究を評価してくださる先生に出会えて、この10年間、研究活動を続けてきました。そしてようやく昨年9月に講談社現代新書から、今までの研究成果に基づいて執筆した『女装と日本人」という本を出すことができました。

091125-8
(資料画像8)

内容は、ヤトタケルからはるな愛まで、女装の日本文化史です。なぜ日本が世界で最も女装文化が発達した国になったのか、その流れがわかるように書いたつもりです。どこかの書店で見かけたら、ぜひ手にとっていただけたら幸いです。

この本の執筆を通じて、私は二千年におよぶ日本の女装文化の伝統を再認識、その末端につらなる女装者としての自覚を、しっかり持つことができました。

これからも、女装の建国英雄ヤマトタケルをもつ日本に生まれた女装者としてのプライドを持ちながら、社会の中で与えられた自分の役割を、しっかり果たしていこうと思います。

まとまりのない話になってしまいましたが、今日、お話したことが、皆さんがご自分のジェンダーと生き方を考える際に、何かのきっかけになったら、うれしく思います。ご清聴、ありがとうございました。





最終更新日  2009年11月28日 00時02分15秒
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