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1月29日(日)
横浜黄金町の「シネマ・ベティ」で上映中の浜野佐知監督「百合子、ダスヴィダーニヤ」を見てきた(横浜での上映は2月3日まで)。 チェーホフなどロシア文学や演劇の名翻訳者として知られ、「女を愛する女」であることを隠さずに生きた湯浅芳子(1896~1900年)と、17歳で天才少女作家としてデビューし、後に共産党指導者宮本顕治と再婚、戦後は民主主義文学の旗手として日本共産党のカリスマ作家となる中條百合子(1899~1951年)が出会い、互いに惹かれあい共同生活に入るまでの大正13年(1924)の1ヵ月半を描いた作品。 ![]() ↑ 出会いのシーン。左が中條百合子、右が湯浅芳子、中央が先輩作家の野上弥生子。 映画の感想は、一言で表現すれば、「バランスが良い映画」だと思った。 具体的に言えば、伝記性(湯浅芳子と中條百合子の再評価)、テーマ性(恋愛と友愛の間、レズビアンの孤独)、ストーリー性(百合子をめぐる女と男の三角関係)、そして娯楽性(2つの性愛シーンと笑い)のバランスが取れているということ。 さらに、浜野映画の特色の一つである、陰影に富んだ美しい画面がたっぷり楽しめる。 二人の若い女優さんの演技は、予想以上。 湯浅芳子役の菜葉菜(なはな)さんの凛としたたたずまいは、後に「孤高の人」と言われることになる芳子の若き日のイメージにつながり、同時に「女を愛する女」(レズビアン)の孤独感を漂わせ秀逸。 中條百合子役の一十三十一(ひとみとい)さんは、夫と女性の愛人を振り回す良家のお嬢さん(著名な建築家中條精一郎の長女)の驕慢さと、大正~昭和初期の「新しい女」の上昇(社会進出)志向をよく表現していた。 百合子の夫で古代ペルシャ語学者の荒木茂役の大杉漣さんは、「こんなに愛しているのに」見捨てられる男を熱演して、大いに笑わせてくれた。 ![]() ↑ 「行かないでくれ!」って抱きしめられても百合子の気持ちはもう離れている。 脇役陣も、浜野映画の常連である吉行和子さん(百合子の母、中條葭江)の大貫禄、大方斐紗子さん(百合子の祖母、中條運)のリアリティ、そして浜野映画初出演の洞口依子さん(先輩作家の野上弥生子)の円熟した美しさと多彩。 百合子は、芳子と7年間の同棲生活の後、共産主義に傾倒したあげくに芳子の愛を裏切り、9歳年下の共産党員宮本顕治に走る。 その愛の破局の場面は、芳子の予知夢という形でわずかにしか出てこない。 つまり、「百合子、ダスヴィダーニヤ(さよなら)」の場面は、ほとんど描かれていない。 その点に批判はあるかもしれないが、私はそれで良かったと思う。 その場面がリアルに描かれていたら、レズビアンにとってあまりに残酷で、私も見ていられなかったと思う。 ところで、私の大きな関心だった衣装は、専門的な視点からもほとんど文句がつけられないほどで、ほぼ完璧だったと思う。 百合子役の一十三十一さんが取っ替え引っ替え着る色彩豊かな銘仙・お召は、着物ファンにとって「銘仙映画」としても十分に楽しめる。 その銘仙の色柄も夫の前のシーンではやや地味に、芳子と2人で過ごすシーンでは派手なものに着分けているように思われた。 ![]() ↑ 二人の着物の着こなしが対照的。 また、湯浅芳子役の菜葉菜さんの藍や茶の縞銘仙、縞お召(唐桟もあったかも)を帯を低く締め「お太鼓」ではなく「貝の口」で結んだり、「お端折り」なしの「対丈」で着たりする男性的な着こなしは、多分に芳子のジェンダーの揺らぎを巧みに表現していた。 ただ、芳子も勤務する出版社や列車の中では、銘仙の羽織を着て、一応、女性で通る着姿をしている。その分、百合子と過ごすシーンでの男っぽい着こなしが強調される。 また、半襟も百合子が華麗な刺繍の色半襟を多用しているのに、芳子は常に白半襟で対照的。 百合子の帯締もこの時代の流行である幅広の平組を多用していた。 「少ない予算で、よくこれだけの衣装を集めたなぁ」と感心、かつ不思議に思っていたところ、着物の提供と着付け指導が「京都古布保存会」の似内恵子さんと知り、納得。 着物・帯だけでなく、半襟や帯締に至るまで、気配りの行き届いた時代考証とコーディネート、似内さんのお仕事は見事だった。 さすが、と言うしかない。 上映後、浜野監督と脚本の山崎邦紀さんを囲んで、階下の喫茶店で「お茶会」。 ![]() ![]() ↑ 私の着物は、映画(大正13年)とほぼ同じ時代(昭和初期)のデザインの椿を織り出した足利銘仙。 さらに、食事(蕎麦屋)もご一緒して、ひさしぶりに浜野監督と山崎さんと、たくさんお話することができ、うれしかった。 [芸術鑑賞・観劇・映画・コンサート]カテゴリの最新記事
こんにちわ。
読み応えありました。 映画の見方、この映画の出来上がってきたいろいろな協力の様子も心動きました。 関西でも観る機会が有るのか調べて見に行きたいです。 写真の銘仙とてもお似合いですてきです。 (2012年01月31日 13時36分22秒)
すぐ誤変換などしてしまう粗忽ものです。失礼があればご容赦ください。
神戸で3月初めに上映あるそうで出かけようと思います。ここで知ることができてよかったです。ありがとうございます。(2012年01月31日 13時41分12秒)
端正なエロスが匂い立つ浜野監督の『百合ダス』大好きで、2度ほど見ました。
それにしても三橋さん、お美しいですね。ため息が出るほどに艶麗な着物姿にジャック&ベティにいらした方々も魅了されたのでは。 私も過日同じ映画館に行きましたが、自分〈パス度〉の低さに打ちのめされてしまいました。 銘仙をお召しになったお姿、写真で拝見するのを楽しみしています。 遅ればせながら本年もよろしくお願いいたします。 (2012年02月01日 13時17分54秒)
吉田瑞生さん、いらっしゃいま~せ。
>写真の銘仙とてもお似合いですてきです。 ありがとうございます。 >神戸で3月初めに上映あるそうで出かけようと思います。 ぜひご覧になってくださいませ。 私も紹介したかいがあります。 (2012年02月08日 00時15分36秒)
関口るいさん、いらっしゃいま~せ。
>端正なエロスが匂い立つ浜野監督の『百合ダス』大好きで、2度ほど見ました。 ああ、「端正なエロス」、浜野作品の本質をよく表現した言葉ですね。 >それにしても三橋さん、お美しいですね。ため息が出るほどに艶麗な着物姿にジャック&ベティにいらした方々も魅了されたのでは。 いえ、いえ、お恥ずかしい。 もうナルシシズムに浸れない年齢になりました。 >遅ればせながら本年もよろしくお願いいたします。 こちらこそ、よろしくお願いいたします。 (2012年02月08日 00時17分52秒) │<< 前へ │次へ >> │一覧 │コメントを書く │ 一番上に戻る │ |
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