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じゃくの音楽日記帳

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2016.01.18
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カテゴリ:演奏会(2016年)
ハーディング&ボストリッジ&新日フィル他で、ブリテンの戦争レクイエムを聴きました。
新日フィルの今年の定期演奏会の、幕開けのコンサートです。

指揮:ハーディング
テノール:イアン・ボストリッジ
バリトン:アウドゥン・イヴェルセン
ソプラノ:アルビナ・シャギムラトヴァ
合唱:栗友会合唱団
児童合唱:東京少年少女合唱隊
管弦楽:新日フィル
コンサートマスター:西江辰郎
室内オケコンサートマスター:崔 文洙(チェ・ムンス)

2016年1月15日 すみだトリフォニーホール
新日フィル第551回定期演奏会

ブリテンの戦争レクイエムを聴くのは2回目です。ここすみだトリフォニーホールが落成した1997年に、ロストロポーヴィチの指揮で新日フィルがとりあげたのを聴いて以来です。そのときは歌詞の意味をほとんど知らず、ただ聴いただけで、それほど強い感動体験にはなりませんでした。聴き手としてまったくの準備不足でした。

それ以来、戦争レクイエムを頭の中では大きな存在として認識していましたが、保有するCDもほとんど聴かず、この曲にほとんど近づかずに過ごしていました。たまに新日フィルなどがこの曲をコンサートでとりあげていましたが、聴きに行くこともなく、時が流れていました。そのようにしてもう20年近くたっているということに驚きです。

今回、ハーディングがこの曲を取り上げるということで、久しぶりに聴いてみたいと思いました。今回は、せっかく聴くので、予習でCDを何回か聴き、歌詞もざっとですが目を通し、概略を理解して臨みました。

戦争レクイエム。この曲はブリテンからの、人類への呼びかけ、問いかけです。単に平和を願い、祈るだけではなくて、より積極的に、繰り返される戦争や殺し合いに、強く抗議するメッセージです。

この曲は、ラテン語による通常のレクイエムの音楽と、第一次大戦の戦場で若い命を落としたオーウェンというイギリスの詩人の詩(英語)に基づく独唱とが交互に組み合わさって登場するという、ユニークな構成です。ラテン語部分は混声合唱とソプラノ独唱と大オーケストラで演奏され、一方イギリスの詩人の歌はテノールとバリトンと室内オーケストラ(12名)により演奏されます。基本的には交代で演奏され、どちらか一方が演奏するときはもう片方は完全に休んでいます。これらの他にさらに、静かな児童合唱がときどき挿入されます。

当日、舞台上には演奏者がびっしりと並びました。ハーディングの右側の客席に近い側は、室内オケです。室内オケは各パート一人ずつで、弦5人、木管4人、ホルン、ハープ、打楽器(ティンパニ、タムタム)の12人でした。プログラムの出演者一覧図を見ると、室内オケは崔文洙さんを筆頭に、各パートの首席級の人たちが結集した精鋭部隊です。さらにこれとはまったく別に、14型3管編成(金管は4管)にピアノと打楽器多数が加わった大オケが乗って、しかも舞台後ろには大合唱団が並びます。さらにテノールとバリトンが指揮者のすぐ左前で歌います。なおソプラノは舞台の後ろの高い位置にあるオルガンの横でした。児童合唱もオルガンのところで歌うのだろうと思ったら違って、ホールの後方、左寄りから聞こえてきました。僕の席は前の方だったので、どこで歌ったかははっきりわかりませんでしたが、想像では3階の左奥の、ホールの壁からちょっとひっこんだ通路のようなところで歌ったのかと思います。1999年に、新日フィルがこのホールで井上道義さんの指揮でマーラー3番をやったとき、児童合唱を後方左の壁の奥の高いところに配置して、良い効果を上げていましたので、おそらくそのときと同じ場所で歌ったのだろうと想像します。今回も、距離感を持って響いてきて良かったです。

ラテン語の合唱のレクイエムと、英語の詩の歌の内容の対比・対立が、ともかく強烈です。例としてひとつだけ、全曲の中ほどの「奉献唱」について書きます。ここではまずラテン語の合唱が、主はアブラハムとその子孫に繁栄を約束した、という内容を歌います。これは聖書のアブラハムの話に基づくものだそうです。聖書に詳しい方は良くご存じと思います。僕は全然詳しくないのですが、聖書の話をざっくり言うと、アブラハムが、神の命令に従い、自分の息子を犠牲にして殺そうとします。神様はそれを寸前で制止して、アブラハムの信仰心があついことを称え、子孫繁栄を保証するというような内容です。

この合唱のすぐあとに、オーウェンの詩がテノールとバリトンの二重唱により歌われます。その内容は、アブラハムが神から命令されて息子を殺そうとするところまでは聖書と一緒ですが、最後が大きく違います。アブラハムは神の制止に従わず、息子を殺してしまうのです。。。神が止めてもお互いに殺しあう人間の性のどうしようもなさをストレートにあらわしているように思います。

曲はこのようにラテン語の合唱と、英語の独唱とが交互に歌われながら、両者が極めて対比的・対立的に進んで行きます。

おそらく全曲で唯一、アニュスディの中で、合唱と大オーケストラと同時に、テノール独唱が歌う箇所がありました。しかし両者の歌詞内容はそこでも徹底的に相反的です。

全曲の最後は、テノールとバリトンが、かつて生きているときに敵として戦った二人として「さあそろそろ僕たちも眠ろう」と静かに唱和します。そこに児童合唱と合唱もかぶってきます。ちょっと聴いた印象では、独唱と合唱は、ここで調和するかのようです。しかし注意して聴いていると、両者はあくまで交代に歌っていて、最後まで同時に歌うことはありません。最後まで両者の緊張関係は解決されずに、静かに曲は消えていきます。

曲が終わった後、ハーディングは指揮棒をややあげたまま、身じろぎしません。会場全体も静寂が保たれ、かなり長いことそれが続きました。それは、余韻に浸るというのとは全く異なる時間でした。それは、祈りでした。ハーディングと一緒に、その場の人々がこ心を合わせて祈ったひとときだったと思います。戦争が絶えてほしい。そのためにはどうすれば良いのか。

5年前の震災と原発事故の日にマーラー5番を演奏したハーディングと新日フィル。あれからもう5年、あのとき以上に危険な方向に向かう、危機的な状況の日本の新年の幕開けに、ブリテンのメッセージを渾身で発信してくれたハーディングと新日フィル。僕たち日本人は、それをどう受け止め、何を祈り、何に抗議すべきなのか。

まとまらなくなりました。最後に演奏のこと。最初から最後まで緊張感が張り詰めた、凄絶な演奏でした。大オケも室内オケも、いい音をしてました。合唱の弱音の美しさは特筆すべきで、ハーディングはこういうところのコントロールが絶妙だと思います。児童合唱も、とても美しく、素晴らしかったです。バリトンは、迫力はやや乏しかったですが、滋味深くやさしい声と歌が素敵だったです。そしてそしてなんといってもボストリッジさんが、圧倒的な存在感でした!全身全霊で没入したボストリッジさんの歌は、鬼気迫るものがあり、強く胸を打たれました。





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Last updated  2016.01.19 14:04:35
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