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2017.11.27
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カテゴリ:シナリオ



神社の境内の片隅に、黄葉した大イチョウが数本並んでいます。その枝下
の地面はイチョウ葉が覆う黄色い絨毯、そこにいつ誰が置いたのか、一対
の白い椅子が並んでいます。変哲もないただの鋳物の古い椅子のようですが・・・・・

<ヨネさんの独り言>

ヨネさんという老婦人が神社の参拝を終えて、この椅子に向かって歩いて
きます。椅子に近づくと、片方の椅子を前後左右に動かして、椅子が安定
していることを確かめると、腰を深く下ろして座りました。そして、大イチョウから少し離れた参道を歩く、二組の七五三参りの親子が歩いている
姿を笑顔で見ながら、持ってきた手提げを広げて、中から小さな木彫り座
像を取り出し、空いている白い椅子の上に乗せました。そしてゆっくりと
人形を見つめながら独り言を始めました。

ヨネ: この白い椅子は誰が置いてくれたのかしらね。この時期にだけし
   か見たことがないものね。ここにあなたが彫ったこのお人形を置
   くと、あなたが出てきてお話ができるんだから不思議よね。
   今日も出てきてね。良い知らせを持ってきたわよ。知っていると
   思うけど、一昨日の土曜日に孫のケイ子が結婚式を挙げたのよ。
   参列者が300人を超える盛大な披露宴だったの。私はあんなに大
   きな披露宴は初めてだからすごく緊張しちゃったわよ。あなたも
   見ていたのでしょう。どこにいたの?

亡き夫: 君の肩に乗って見ていたよ。あんなに盛大な披露宴になると、
   格式張った感じになると思うけど、そんなところが全くなかった
   ね。新郎とご両親の人柄だね。良い家に嫁に行ったと喜んでいる
   んだ。

ヨネ: あら、あなたの声と一緒に顔が見えるようになったわ。こうし
   て今年もお話ができるんだから私は本当に幸せだわ。

亡き夫: 本当だな。ところで、もう杖をついていないね。足の方は良く
    なったようだね。

ヨネ: 良くなってきたのよ。まだ長い距離を歩くのは怖いけど、買い物
   をする範囲内で歩くにはもう大丈夫よ。

亡き夫: それは良かった。披露宴会場では最初はおとなしかったけど、
    途中からは席が温まる暇もなく会場を動き回っていたね。プロ
    のカメラマンのような動きだったよ。写真の出来栄えはどうか
    な。喜んでもらえる写真で上手に整理できるといいね。

ヨネ: そうなんだけど、チョッと後悔しているの。私は親族だからと、
    最初の内は新郎新婦の席からは一番遠い席で、そこから動かな
    いでいたでしょう。だから撮るアングルが一面的になっちゃっ
    た。あれが残念だったな。

亡き夫:そうだったね。300人が入った広い会場だったから、花嫁・花
    婿のひな壇までかなりの距離があったしね。でもお色直し後は
    プロカメラマン顔負けだったぞ。

ヨネ: これではいけないと、お色直し後は頑張ったわ。カメラ大好き
    婆さんの血が騒いで、ジッとしていられなくなったのよ。
    お気に入りの写真は良いアングルからですからね。その良いア
    ングルは行動力なしでは得られませんから。でも昨日、パソコ
    ンで画像を確認したんだけど、自分で満足できる新郎新婦の良
    い笑顔の写真が私にしては少ないのよ。それに、手ブレや参列
    者が邪魔している写真があるの。雰囲気に圧倒されて、冷静に
    シャッターを切れなかったようね。年は取りたくないわ。

亡き夫: それでも君のことだ、良い写真も写せているんだろう。トリミ
     ングや写真補正はお手のものじゃないか。受け取るケイ子の
     笑顔を想像しながら、センスのいい写真整理を頼むよ。

ヨネ: でもプロのカメラマンさんがいるんだから、親である息子たちに
   はあげようと思っているけど、ケイ子のところには送ることを遠
   慮しようと思っているの。だって、ケイ子のところにはプロの写
   真が来るんでしょう。比較されたら恥ずかしいものね。

亡き夫: お祖母ちゃんが写した写真だから喜んでもらえるよ。それにし
    てもプロの作品と比較されちゃたまらないという、プロと張り
    合う負けん気は相変わらずだね。まだまだ若いよ。息子のとこ
    ろに送っておけば、新婚旅行から帰ったら、必ず挨拶に寄るだ
    ろうから、その時には見てくれるよ。

ヨネ: わかった。プロの作品と張り合う気はないけど、私なりの工夫で
    かわいらしく、そして美しく編集することを頑張るわ。どんな
    レイアウトで、どんな台紙を使おうか、なかなか決まらないで
    困っているわ。今日はあなたの意見を聞かせてもらいたいと思
    っているの。あら、あら、あなたの姿が薄くなってきた。
    肝心な時にもう時間が来ちゃったのね。仕方ないわ、来年も来
    るから必ず来てよ。それじゃ~ね。

亡き夫: 次の方がこちらに向かって歩いてくる。達者で暮らしなさい。

ヨネさんは人形を手提げの中に仕舞うと、ゆっくりと立ち上がり、笑顔
を残して不思議な白い椅子から離れていきました。





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最終更新日  2017.11.27 08:21:17
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