9月に入って、今年も「ひやおろし」の出荷が始まりました!と、茨城県の蔵元でひやおろしのラ
ベルを瓶に貼り付けている映像が流れました。ひやおろしとは、涼しくなってきた秋口に店頭に
並び始める日本酒です。春先に搾り、ひと夏寝かせたひやおろしは、芳醇でまろやかな味わいにあ
ふれています。日本酒ファンにとっては、秋の風物詩といえるお酒ですね。
ひやおろしの大きな特徴は、冬に仕込んだ日本酒を1度だけ加熱処理をして、ひと夏寝かせたお酒
であること。通常、日本酒は秋から翌年春先の寒いシーズンに造られるのが一般的です。シーズン
中に搾られたお酒は、貯蔵前と瓶に詰める前、2回にわけて「火入れ」と呼ばれる加熱処理がほど
こされます。
一方、ひやおろしの火入れは、貯蔵前の1度だけ。その後はタンクのなかでひと夏を過ごし、静か
に出荷の時を待ちます。ひやろおしが出荷されるのは、タンク内のお酒と外気温が同じになったタ
イミングです。1度だけしか火入れをしないひやおろしの製法は「生詰め」と呼ばれています。当
然ながら、いつか飲もうと取っておいた日本酒と、寝かせることで美味しくなるように計算されて
出荷されたひやおろしとでは、味の違いがでてきます。ひやおろしの出荷は11月上旬までで、県内
だけでなく全国の小売店や海外にも出荷されています。
今回は茨城県のひやおろしの紹介です。
<「純米酒」「吟醸酒」「本醸造酒」の違い」
酒類の定義や分類方法は、酒税法という法律で規定されています。日本酒は「清酒」に分類されて
おり、清酒は「必ずお米を原料として、「こす」という製造工程を入れなければならない」と定義
づけられています。日本酒のラベルに記載されている
「吟醸」や「純米」は、お米の精米歩合や原料などの条件を満たした「特定名称酒」の呼称で、
「吟醸酒」「純米酒」「本醸造酒」の3種に分類されます。それ以外は「普通酒」と呼ばれ、原料
や精米歩合に決まりがなく、比較的リーズナブルな価格帯の日常酒になります。
(1)「純米酒」と「吟醸酒」「本醸造酒」の違い
純米酒とは米、米麹、水だけで造られた日本酒のことです。対して、吟醸酒と本醸造酒は、「醸造
アルコール」を添加しています。違いを一言で言うと、醸造アルコールが含まれているかいないか
なのです。純米酒は、純粋にお米だけを原料にした日本酒です。米だけで造っているからこそ、米
本来の旨味、ふくよかなお米の香りが楽しめます。炊きたてのご飯を想像してみてください。おい
しいお米は、甘みや旨味が凝縮されているのを感じられると思います。純米酒は、この炊きたての
ご飯と同じように、米のおいしさを引き出している日本酒なのです。ひやおろしは純米酒をひと夏
の間、寝かせています。
(2) 吟醸酒と本醸造酒の違い
醸造アルコールが添加されている点は同じです。尚、添加できる醸造アルコールの量は、使用する
米の重量の10%までと決められています。具体的な違いは、まず1つ目が「精米歩合」です。精米
歩合とは、お米をどれだけ磨いているかを表す数値。お米は中心部にいくほど雑味が少なくなると
いわれています。「精米歩合60%以下」とは、お米を40%以上磨いた(削った)ということです。
吟醸酒の精米歩合は60%以下、大吟醸酒は50%以下ですが、本醸造酒は70%以下と決められてい
ます。精米歩合が60%以下の本醸造酒もありますが、これは「特別本醸造酒」と呼ばれます。
もう1つの違いは、吟醸酒が「吟醸造り」という製法で造られているということです。吟醸造りと
は、よりよく磨いたお米を、通常よりも低い温度で長時間発酵させる方法です。吟醸造りによっ
て、フルーティで華やかな香りが生まれます。本醸造酒は、香りは控えめでスッキリとした辛口
のお酒が多くなります。
日本酒を楽しむときは、お酒の銘柄はもちろん、ラベルに記載されている呼称や、精米歩合、原
料にも注目してみてください。どの特定名称酒に分類されているか、どんな原料を使用している
かがわかると、日本酒との付き合いもさらに楽しくなるでしょう。
<ひやおろしの豆知識>
(1)ひやおろしは、1度だけ火入れをする「生詰め」のお酒です。
一般的に、2度火入れをした日本酒は、口当たりなめらかなお酒になるといわれています。
対して、1度だけ火入れをしているひやおろしは、フレッシュな味わいが特徴。と同時に、
一定期間熟成させることで、生酒の荒々しさがまろやかな風味へと変化しています。です
から、みずみずしく奥行きのある味わいが、ひやおろしの大きな魅力なのです。
(2)ひやおろしの語源
ひやおろしの「ひや」は、冷たいお酒ではなく、常温の「ひや」を意味しています。前述
したように、ひやおろしを出荷するのはタンク内と外気温が同じくらいになった頃で「常
温で卸す」ことから「ひやおろし」というわけです。
ひやおろしは江戸時代には誕生していましたが、当時は保存が効かないことから広くは流
通せず、蔵に近い人しか飲めない貴重品だったそうです。
現在のように「秋の日本酒=ひやおろし」のイメージができあがったのは、今から約30年
前のこと。卸売業を営む株式会社岡永(日本名門酒会)が、秋の限定品として商品展開し
たことがきっかけだといわれています。また、およそ半年の熟成を経て酒質が向上したお
酒は「秋あがり」。反対に、熟成がうまくいかなかったお酒は「秋落ち」と呼ばれます。
(3)ひやおろしのおすすめの飲み方
秋しか飲めないお酒、ひやおろし。季節が進むほど味が深まるひやおろしは、販売時期に
よってさまざまな飲み方を楽しめます。つめたく冷やして、または燗でと、ぜひ季節なら
ではの味わいを堪能してみてください。
(4)よく冷やして、生詰めの爽やかな味わいを楽しむ
9月頃に出回るひやおろしは、キリッと冷やして味わうのがおすすめです。スッキリとし
たキレが際立ち、生詰めならではの爽やかな味わいを楽しめます。暑さが残る季節は氷を
入れ、オンザロックにしても美味しいですよ。
(5)燗でひやおろしのコクを楽しむ
秋が深まる10月頃のひやおろしは、ぬる燗で楽しむのがおすすめです。この時期のひや
おろしは味と香りのバランスに優れ、適度に温めるとより一層まろやかな味わいを堪能
できます。脂の乗り始めたサンマとの相性もばつぐんです。また、晩秋旨酒とも呼ばれる
11月のひやおろしは、旨味がさらに増した芳醇タイプ。熱燗にしても味のバランスが崩
れず、料理とともに美味しく味わえます。是非、きのこ類や焼き銀杏、ジビエ料理など、
秋の味覚とのペアリングを楽しんでみてください。
(6)9月とはいくら何でも早すぎない!:
9月初めは暦の上では秋ですが気候的にはまだ真夏。ひやおろしは秋酒なのに出荷時期が
早すぎると思いませんか。実は、ひやおろしと一括りにしても、8月から11月頃まで次々
とリリースされていきますので、夏頃に出荷した銘柄と、晩秋を迎えてから出荷する銘柄
とでは、あきらかに熟成感が変わってくるのです。8月から9月にかけては、落ち着いた酒
質ながらもハツラツとした印象が残る味わいを楽しめます。10月、11月と秋が深まるに
つれて熟成感はアップし、旨味も増えていきます。目指す味わいにより各蔵元の出荷時期
も異なるので、様々な熟成感が楽しめることもこの時期ならではの醍醐味です。また、瓶
の中でも緩やかに熟成は進み、じんわりと味わいを深めていきます。数ヵ月でもここまで
変化するのかと感じることもあります。同じ銘柄の熟成を追いかけて飲むのも、ひやおろ
しの時季ならではの楽しみ方です。
<茨城県の「ひやおろし」銘柄>・・・解説は各蔵元の商品説明より
- 商品名:武勇【ぶゆう】純米吟醸 ひやおろし 720ml 1,570円 (税込み)
蔵元:武勇酒造(結城市)・・・江戸時代・慶応年間創業の歴史ある蔵元
古くから残る土蔵の中でゆっくり寝かせました。まだまだ暑さが残るこの季節、軽快なが
らしっかりとした武勇らしい味わいが特徴のひやおろしはいかがですか。芳醇で、豊かな
旨味を感じられるこのお酒は、秋の味覚と一緒に合わせていただいても大変相性の良い食
中酒です。
2.商品名:月の井 純米酒 ひやおろし 720ml 1,400円(本体価格)
蔵元;月の井酒造(大洗町)・・・慶応元年創業、150年以上大洗で酒造り一筋
ピュア茨城のひやおろしです。茨城県唯一の酒米、ひたち錦を使用した秋のお酒。お米の
旨味を十分に感じる、飲み応えのある逸品。冷やすとサッパリとキレのある味わい、熱燗
も味の幅が広がり非常にお勧め。
3.商品名:松盛 純米酒 ひやおろし 720ml 1,430円(本体価格)
蔵元:岡部合名会社(常陸太田市)・・・蔵元杜氏が醸す、テロワールな日本酒。
ひと夏熟成させることで新酒のあらあらしさが消え、秋口になって出荷前の火入れをせず
にびん詰めした丸みのあるお酒です。冷でも燗でもどちらでも適しています。
4.商品名:徳正宗 純米吟醸 ひやおろし 1800ml 2,860円(税込)
醸造元 萩原酒造株式会社(猿島郡)・・・1855年創業。現在で6代目です。
寒中に作り上げたお酒を加熱殺菌の為に1回だけ火入れし、その後、酒蔵の冷蔵室で大切
に冷蔵保存。夏の間ゆっくりと熟成させると若々しく華々しい味わいがコクのある円熟し
た味わいに変化します。30年前なら蔵元の地元でしか味わえなかったひやおろし。豊か
な香りと円熟の深くまろやかな味わいをサンマやキノコ等の秋の味覚と共にぜひお楽しみ
下さい。
5.商品名:来福 純米 ひやおろし 720ml 1,650円(税込み)
醸造元:来福酒造(筑西市)・・・1716年創業。300年以上の老舗です。
茨城県産の若水とツツジの花酵母で仕込み、一夏の間じっくり低温熟成させました!まず
来福にしては控えめですっきりとした香りを感じます!口あたりはシャープですが、柔ら
かな旨みと酸のバランスが絶妙!やや辛口で料理との相性も良く、呑み疲れしない季節限
定ひやおろしです!
まとめ
ひやおろしは、日本の四季が造り上げるお酒です。日本酒好きにとっては、年に1度だけの秋の贅
沢といえるかもしれません。秋のお酒ひやおろしは、旨味のある秋の食材と相性抜群。サンマやキ
ノコなどといっしょに飲むことで、さらに美味しく楽しむことができます。飲食店や酒販店で「ひ
やおろし」の文字を見つけたら、ぜひ秋の訪れを感じながらその味わいを堪能してみてください。
その時は茨城県産の「ひやおろし」を是非ご賞味くださいね!