茨城味自慢:粘り強さが魅力の山の幸「自然薯」
「山菜の王者」として知られる自然薯は生で食べられる唯一の芋です。中国では漢方薬として扱われ、「山薬」や「唐山薬」と呼ばれています。日本でも江戸時代から体力増強や疲労回復の効果があると、とろろ飯などで食べられてきました。もちのような粘り気の強さと漢方薬に使われるほどの栄養価の高さが評判ですね。自然薯は日本原産です。自生する自然薯は掘り出すのが重労働なのに、掘り出した自然薯は大きさ、太さ、形もみんな不揃い、更に土留めを壊すからと採掘禁止の場所もあります。ですから自然界に自生している自然薯が商品として市場に出回ることは稀な食材でした。しかし、現在は人工栽培により畑で栽培されて、揃った長さ、きれいな姿で市場に出回っています。茨城県では、笠間自然薯研究会が23年前から研究を続けており、笠間自然薯研究会の会員は、会が推奨する有機栽培以外の方法で栽培した場合や化学肥料などが検出された場合は、その年の出荷は認めないという厳しい措置を決めて栽培しています。科学的データ採取で厳格な管理をしているのです。栽培法は、伸びてきた根菜部を塩ビ製のU字管に沿ってまっすぐに成長させるというものです。この方法により種芋の植え付けから1年で収穫ができるようになりました。現在では茨城県内の多くの農家がこの自然薯栽培に取り組んでおり、高品質な自然薯が供給されています。茨城県の自然薯生産量ランキングは国内7位で上位ではないのですが、北茨城、古河、笠間、高萩など県内全域で栽培されています。自然薯を使用した6次生産品も多く生まれていることから、今後の成長が大いに期待される作物です。今回は茨城県産の自然薯を紹介します。 <自然薯とはヤマノイモ科の中の一つの品種>山芋(とろろいもの名称でもお馴染み)とは、ヤマノイモ科という大きな分類の中に、「長いも」、「大和いも」、「自然薯」という3種類ある品種の総称です。尚、自然薯以外は中国が原産の外来種といわれています。①長いも:長い棒状で、最も一般的に流通している山芋。水分が多く、すりおろすとサラサラ しており粘りが少なくあっさりとした味ですが、短冊切りなどで食べるとシャキシ ャキとした食感を楽しむことができます。②大和いも(いちょういも・つくねいも他):関東ではいちょうの葉に似たいちょういも、関 西では丸っこいげんこつに似たつくねいもが出回っています。共に長いもと比べて 粘りが強く、食感も濃厚であるため、とろろだけでなく天ぷらや鉄板焼きなどでも 美味しいです。③自然薯:日本人が古来より食し、貴重な栄養源だった自然薯。餅のように伸びる粘り、すり 鉢ですった後は、逆さまにしても落ちない粘性の高さが特徴です。自生の自然薯は グネグネしていてアクや粘りがマチマチですが、栽培自然薯は姿が長いもに似た長 い棒状で、甘くてきめ細かで、粘りが強く、アクも少ないなど調理しやすい品質で 安価に供給されています。濃厚な味わいで、とろろ汁や山かけに向いています。④掛け合わせ品種:「ネバリスター(根張星)」2008年に種苗会社が開発した品種。これは長 いもといちょういもを掛け合わせた品種で、北海道の地域限定で栽培されています。 すりおろしたとろろの粘りが長いもの約2倍強いという特徴があります。(自然薯について)名の由来は、中国を原産とする近縁の長いもや里いもが畑で作られるのに対し、自然薯は野山に自生するため「自然薯(じねんじょ)」と呼ばれます。「薯」は芋を表す漢字で、自然の環境で育つ芋という意味です。自然薯は長いもや大和いもとは染色体の数も異なり、もちろん風味や粘り気も大きく違います。「ダシで伸ばしても香りも粘りも生きるのは自然薯だけ」とも言われる山芋の中の王者です。自然薯は野生種ですから、山野に限らず雑木林や藪、荒れ地、そして街中の道端でも普通に見られます。 <山芋の世界生産量ランキング(2019年>1位 ナイジェリア 50,052,977 (t) (67.3%)、2位 ガーナ 8,288,198 (t) (11.2%)、3位コートジボワール 7,176,762 (t) (9.7%)、4位 ベナン 3,088,498 (t) (4.2%)、ナイジェリアとガーナが圧倒的に多く、全体の約78%を生産しています。日本の生産量と比較すると数桁も上です。ナイジェリア・ガーナの山芋は食用として消費されています。<山芋の国内生産量ランキング(2021年)>1位 北海道 74,500 (t) (43.1%)、2位青森県 56,300 (t) (32.6%),3位 長野県 6,730 (t)(3.9%)・・・7位 茨城県3,260 (t) (1.9%) 北海道と青森県で75%を収穫しています。北海道・青森では長いもが主力ですが、北海道ではネバリスター、青森ではつくねいもも栽培されています。<自然薯の人工栽培の歴史>自然薯はスーパーフードとしてメディアを賑わせてから需要が高まり、天然物だけでは供給が追いつかなくなりました。自生の自然薯は、地上部に長いツルを伸ばし、芋の部分は地下に肥大します。しかし、芋の部分は養分を取られてしぼんだり、太くなりすぎて大味になったりすることがあります。また、掘り出す際に傷つけやすいという欠点もあります。何とか長いものように、まっすぐで棒状の自然薯を畑で作りたいと工夫を重ねて、世界で初めて成功したのは山口県の政田自然農園です、50年前に独自の栽培器具「クレバーパイプ」を考案し、畑での人工栽培を可能にしました。このパイプは累計1400万本が供給され、全国に自然薯栽培が広がる先駆けとなりました。その後、全国でU字管、ビニールシート、波板を使った栽培方法が考案され、更に自然薯の栽培が広がっていきました。現在の自然薯は長いもと遜色のない姿、形で収穫できるようになりましたが、それでもまだ自生の自然薯の内容には届いていないと、改良に取り組んでいるそうです。どれだけ自然界の環境に近づけられるかがポイントなのでしょうね。改良の一環なのかもしれませんが、最近では種芋からの栽培以外に、ムカゴを種として栽培した自然薯が市場に出ています。<自然薯の豆知識>1.自然界での自然薯の見つけ方自然薯は山野から街中まで何処にでも生えています。春から夏では①ツル性植物ですからスマホの配線の太さぐらいの赤褐色のツルが巻き付いている木を見つけます。②そのツルの葉は長いハート形であるか確認します。③そのハート形の葉が対生であることを確認します。④ツルが右周り上がりで巻き付いて上に伸びていることを確認します。これらが満たされればそれは自然薯のツルです。秋になりますと葉はひときわ鮮やかな黄色になり、葉の付け根にムカゴができます。山野にある高級食材は見つけることが大変だから価値がありますが、自然薯は夏から秋なら見つけるのは簡単です。自然薯の収穫時期は冬です。冬にはツルも葉もなくなっています。こうなると見つけるのは大変、そして、自然の環境の中で傷をつけずに掘り出すのはもっと大変です。自然薯が高級食材である価値はここにあります。2.痒くなる原因はシュウ酸カルシウム自然薯を触ると痒くなるのは、シュウ酸カルシウムという物質が原因。シュウ酸カルシウムは自然薯の皮の付近に多く含まれており、針状の結晶が皮を剥いたり、すりおろしたりすることで砕け、皮膚に刺さり刺激することで痒みが引き起こされます。痒くなってしまった場合にはこすらずに、酢水を使って洗い流してください。シュウ酸カルシウムはアルカリ性の物質なので、酸性の酢水で洗うことで中和されて痒みが軽減されます。ただし、酢水で洗い流しても痒みが治まらない場合はアレルギーの可能性があるので、症状がひどい場合は医療機関の受診をおすすめします。3.山芋(自然薯・長いもなど)はなぜ「生」で食べられるのか?芋の主成分はデンプンですが、デンプンの分解酵素ジアスターゼを含むため、胃に負担がかからず、生でも食べられるのです。4.生と加熱調理生と過熱処理後では食感が変わり、生でシャキシャキ、加熱すると、ホクホクの食感を楽しめます。すりおろしたものは、生だとトロトロ、加熱するとフワフワで、もっちりした食感に変化します。お好み焼きやホットケーキなどを、ふわふわに仕上げたいときに加えると良いです。5.栄養価と効果自然薯は、身体にとってよい効果が期待できる多くの栄養素を含んでいます。その栄養成分とは、カルシウムや鉄分、リンなどのミネラルやビタミン類で、細胞の新陳代謝を促進する効果が期待できます。また、自然薯ならではの栄養素として近年注目されているのがディオスゲニンという物質。この物質には若さを維持したりホルモンのバランスを整えたりする効果があるといわれるDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)を増やす役割があるのです。神経ホルモンの一種であるDHEAが増えることで、ドーパミンの量を適切にしてホルモンの分泌を促進してくれます。このようにさまざまな栄養素を豊富に含んでいるからこそ、自然薯が古くから身体を健康に保つ効果があるといわれている理由なのです。5.太すぎる自然薯は味も大味になりがち山中に自生して収穫されたものには大きくて太いものは稀です。ですから、太いものは自然界とは程遠いい環境で育った栽培物であり、味や香りが劣るとされています。太さが 3~4cm のものを選ぶと良いです。皮の表面に張りがあり、ひげ根が乾燥していない、ずっしりと重いものを選びましょう。カットして売られているものは、切り口が真っ白なものを選んでください。濁りのない断面のものはアクが少なくおいしいです。6.自然薯の旬の時期自然薯の収穫は10月~3月ですが、旬は、11〜1月にかけてです。葉やつるが完全に枯れてから、旬の時期には自然薯が折れないようにして収穫されます。また、花が枯れる前の9〜10月頃には自然薯の葉の付け根にムカゴと呼ばれる小さい球状の芋ができ、これも食材の一つとして親しまれています。ムカゴも自然薯と同じ味で、皮のまま醤油で炒めたり塩で茹でたりして食べることができるので、見かけた際はぜひ食べてみてください。7.自然薯の保存方法冷蔵保存:自然薯は低温下では休眠状態のまま生きた状態で保存しておくことが出来ます。家庭では乾燥しないように袋に入れて冷蔵庫に保存します。数週間は 美味しい状態で食べられます。冷凍保存:冷凍保存する場合は、摩り下ろしてとろろの状態にし、保存バッグなどに入れて冷凍しておきます。解凍後は粘りが弱くなっていることがありますが、再度すり鉢ですり混ぜると粘りが戻ります。8.旬の時期の美味しい食べ方旬の時期に収穫された自然薯が手に入ったら、火であぶって皮に生えている毛を焼き取った後、タワシでよく洗い、皮をむかずに擦りおろしましょう。皮に栄養分が凝縮されていておススメです。9.自然薯の味わい方自然薯はすりおろすことで強い粘り気が出ます。他にそのまま切って食べるとシャキシャキとした食感が楽しめます。調理法によって異なった食感が楽しめるのが特徴ですね。さらに自然薯は細く皮が薄いので皮をむいてから調理をするのが難しいのですが、皮付きのまま調理する方が風味は損なわれません。しかし皮付きですりおろすとアクが出て色が変色してしまうことがありますが、これは鮮度などには関係なく味にも変化はないので、皮付きのまますりおろして味わうのがおすすめです。もし変色が気になる場合は、皮をむいてからすりおろすと酸化を防ぐことができます。自然薯はあっさりとした味わいで食感などを楽しむ食材なので、しょう油やめんつゆなど調味料と合わせることで、味の変化を楽しむことができます。料理としては「とろろ汁」が代表的ですが、「自然薯巻き」「むかごの炊きこみ御飯」なども美味です。和菓子では「カルカン」も自然薯が原料の和菓子で、自然薯・砂糖・卵・上新粉・水・酢でおいしくつくることができます。<茨城県の自然薯栽培>自然薯は、芋を種芋して植え付ける方法と、ムカゴから栽培する方法があります。種芋から植え付ける方法は、3月下旬~5月中旬に植え付け、11月上旬~3月上旬頃に収穫します。ムカゴから栽培する方法は、9月~10月頃に収穫したムカゴを翌春まで保存し、3cmの深さで埋めて育てます。自然薯は地中深くに長く伸びるため、収穫しやすいように塩化ビニール製のパイプや波板を使って栽培します。自然薯は加湿を嫌うため、マルチを敷いたり、肥料や農薬は控えめにしたりすることが大切です。(1)自然薯の栽培は、まず春のお彼岸の頃に、前年に収穫した自然薯から一片50〜60gの輪切り にして種芋にします。(2)5月~6月にかけて発芽した種芋を畑に植え付けます。雨といに似たU字型のシートの上に種 を植え、それを少しずつずらしながら、山砂をかけて生育させます。山砂は自然薯に色が付 かないなどの利点があります。伸びてきた根菜部はシートに沿ってまっすぐに成長していき ます。自然薯は皮が薄くデリケートなので、きれいに掘り出すために形だけは揃うようにす るためです。しかし、山の環境に近づけるため、土はなるべく固くします。すると抵抗がか かる中で太ろう太ろうとして身がしまるのです。柔らかい土で栄養をたっぷり与えればいく らでも大きく育ちますが、それでは肉質や栄養価など、自然薯の個性が失われてしまいます。(3)11月~3月にかけて収穫します。 自然薯作りは土壌と肥培管理がとても大切です。硝酸体窒素とか窒素系のものが多い畑ですと、 できた作物は腐りやすくなります。ですから、窒素分の少ない畑にすることで、傷みづらい作物 にします。山の土にはそういうものはほとんど含まれていませんから、できるだけそれに近くし てやる。そうすることで小ぶりだけれどぎゅっと詰まった、長持ちする品質になるのです。ベテ ラン農家の栽培経験に裏打ちされた技術が、栄養価の高い自然薯を生み出します。<茨城県の自然薯を使った6次生産品>6次生産品とは、農林水産物を原料として加工したり、観光や体験などのサービスを提供したりすることで、付加価値を高めたものです。①自然薯の磯辺焼き:自然薯をすりおろして小麦粉や卵でまとめ、油で揚げたもの。②自然薯のチップス:自然薯を薄くスライスして油で揚げたもの。塩や砂糖などで味付けする。③ 自然薯の酢漬け:自然薯をすりおろして塩で下味をつけ、酢や砂糖などで味付けしたもの。④自然薯のヨーグルト:自然薯をすりおろしてヨーグルトに混ぜたもの。⑤自然薯のジャム:自然薯をすりおろして砂糖やレモン汁などで煮詰めたもの。⑥自然薯のソフトクリーム:自然薯をすりおろして牛乳や生クリームなどと混ぜて凍らせたもの。これらの6次生産品は、茨城県内の直売所や道の駅などで購入することができます。是非、今が旬の茨城県産の自然薯をご賞味あれ!皆さん、良いお年をお迎えくださいね!