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カテゴリ:映画
12月19日(月)新宿ジョイシネマ2にて
アーサー・ゴールデンの小説「さゆり」の映画化です。原作は読んでいませんが、作者は10年以上の歳月をかけて、日本の花柳界を取材したようです。ただし、小説と映画は別物。映像化された花街と芸者の生態は、かなり珍妙なものでした。 スピルバーグ制作総指揮、「シカゴ」のロブ・マーシャルを監督に起用した2時間20分の映画は、たしかに大作の風格を持っています。大がかりなセット、流麗なカメラ、重厚な音楽。どれをとっても、一流のものです。 しかし、内容がそれに伴っていません。例えは悪いですが、耐震偽造のマンションみたいなもの、といったらいいでしょう。外観は豪華でも、内部は脆弱な砂上の楼閣でした。 欧米人の日本に対する認識の低さには目をつむるにしても、ドラマは一向に盛り上がりません。序盤、さゆりの少女時代(千代・大後寿々花)が描かれますが、悲惨な生い立ちが伝わってこないのです。姉は遊郭に、自分は置屋に売られ、虐待に耐えるのですが、こちらの感情は冷めたままです。 中盤、会長様(渡辺謙)と橋の上で出会い、かき氷をご馳走になるシーン。ひとつの山場です。ここで千代は芸者になる決心をします。次のドラマが待っているのですが、試練を乗り越えて一流芸者に成長して行く過程も、平板でした。 さゆり(チャン・ツィイー)と、姉さん芸者の二人、同僚のおカボ(工藤夕貴)、強欲な女将(桃井かおり)との関係も、型通りで新しい視点はありません。 会長との再会も、もっと感動的であってもいいと思うのですが、こういう肝心なところもサラっと流してしまいます。つまり、全体に演出が一本調子なのでした。静謐であるべきシーンでも、和楽器を使ったうるさいBGMが邪魔をしています。 主演の女優、悪くはありませんが、華に欠けています。若き日の山本富士子なら、牡丹のような絢爛たる芸者姿を披露してくれたでしょう。主要な女性役が、すべてアジア系であるのも納得できないところです。役所広司がこの映画でハリウッドデビューしました。 一人の女性のサクセスストーリーとしては、中途半端です。文学の世界でいう教養発展小説としては、内面の掘り下げが不足でしょう。娯楽映画としても、成功していません。 と、いろいろと文句を並べましたが、ラストは感動しました。ここでやっと、我が涙腺もゆるんだのです。退屈だった2時間あまりを過ごした甲斐があった、というものです。 ハリウッドの大資本が、日本を舞台にした作品で世界市場を制覇しようとした大作。早くもアカデミー賞受賞の噂もあります。ヒロインのナレーションにもあった東洋的無常観が、アメリカ人のエキゾチシズムを刺激したのかもしれません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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