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カテゴリ:映画
2月7日(火)新宿ジョイシネマ2にて
1972年のミュンヘン・オリンピック。選手村で、《黒い9月》と名乗るパレスチナ・ゲリラが、イスラエルのコーチや選手11名を殺害しました。本作はその事件をモデルにしています。 このとき、平和の祭典オリンピックは、一瞬にして民族紛争の修羅場と化しました。以後、76年モントリオールでは、南アフリカのアバルトヘイト政策に反対するアフリカ諸国が、80年モスクワでは、ソ連軍のアフガン侵攻に抗議して西側諸国(米国、日本、西ドイツ、韓国等)がボイコット。84年のロサンゼルスでは、前回の報復としてソ連、東欧諸国が不参加。オリンピックは国際政治の渦に翻弄されたのです。 近未来のSFもので低迷を続けていたスティーブン・スピルバーグが、「プライベート・ライアン」以来、久しぶりにシリアスな題材に取り組みました。ユダヤ系の監督が、この事件をどのように取り扱うか、注目の話題作です。 冒頭、ニュース・フィルムを交えながら、ゲリラ事件が紹介されます。テロリストたちが選手村に侵入、イスラエル人を殺傷、拘束しました。結果的に、ドイツ政府の不手際によって、人質全員が射殺されます。 映画の大半は、その後日談。テロの報復として、イスラエル政府が秘かに命じた暗殺プロジェクトと、リーダーの苦悩がテーマです。対外諜報機関モサドの局員で、暗殺チームのリーダー役がエリック・バナ。ほかにジェフリー・ラッシュ、ダニエル・クレイグ、マチュー・カソビッツなどが共演しています。 2時間40分という長い作品ですが、重い主題と、緩急自在の演出で、長さはほとんど感じませんでした。が、見終わったあと、虚しさが残ったのも事実です。「報復のあとには平和は来ない」とわかっていながら、国家の威信を守るために、無駄ともいえる殺人を繰り返すチーム。 彼らも次第に、この計画に疑問を持ち始めます。それでも報復を続けなければならないのですから、暗澹とした気持ちにならざるを得ません。 テロリストを抹殺しても、すぐに後がまがあらわれます。相手も手紙爆弾やハイジャックで報復。その応酬のあとに、どんな秩序が生まれるのか、何も見えてきません。終わりのない報復合戦が続くだけです。 殺戮シーンは、職人的演出でリアルそのものです。リアルに描くことで、殺人の残酷さを訴えようとしたのでしょうか。それにしては、背後のメッセージが弱いように感じました。平和への希求が見当たらないのです。 暗殺チームが素人集団、というのも、意図的でしょう。技術的な欠陥や、人間としての弱さを持たせること、またリーダーが料理の達人で家族思いということで、残酷さを中和させているのです。 こういうバランス感覚はいいのですが、訴求力は失われました。結局、スピルバーグは偉大なるアルチザンであって、ついにアーチストではなかった、ということが証明されたわけです。 これは決して悪口ではありません。巨大な資本を要する映画産業では、アルチザンであることが基本なのです。3時間弱の長丁場を引っ張っていく映像の力は、スピルバーグだからこそ成し得た力業でしょう。 ご立派、のひとことに尽きます。新しい世界観を期待すると裏切られますが、映画の天才が志したエンターテイメントは、いろいろ不満を並べても、高いハードルを越えた、と賞賛してもいいでしょう。 繰り返しますが、本作品は、現実社会にコミットしていません。そこを問わなければ、観ても損はしない力作です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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