医学界の権威主義よ、アボーンしろ
大陸移動説の時に書いたが、専門外の学者の発表を無視されて手柄をもらえなかった例を書きたい。
東京帝国大学農学部の教授であった鈴木梅太郎が、米ぬかの中から脚気(かっけ)防止に有効な成分を抽出して「オリザニン」と名づけた。(1910年)
これは、現在ではビタミンB1と呼ばれており、サプリメントなどで食した方も多いのではないかな。
発見当時、脚気(かっけ)の原因・予防が重要な問題となっていた。にもかかわらず、鈴木梅太郎の発見は日本の医学界から無視されたのである。
医学界にしてみれば、農学者を低く見ていた。「百姓の小せがれが画期的な薬を発見できるはずなどありえない」といった具合である。
鈴木がオリザニンを発見した1年後に同一の物質を発見したポーランド人のカシミール・フンクが「ビタミン」を発表し、名称が一般化したのである。
当時の権力、見え、縄張り意識を捨てていれば現在「ビタミン」と呼ばれていた名称が「オリザニン」と呼ばれていたことであろう。
彼の功績は日本国内ではあるのだが、(文化勲章受章)世界的には無名に近い。残念である。
日本では江戸時代にビタミンB1不足による脚気が猛威を振るっていた。
当時、不思議なことに地方から江戸に出てきて、麦飯から白米食を食べだしてから罹る病気だったので「江戸やまい」などと呼ばれたのである。
将軍も脚気で亡くなった方として、3代家光、13代家定、14代家茂などがあった。結核などのように感染する病気と考えられていたのである。
しかし、彼の所属している理化学研究所が発売したオリザニンにより脚気で死亡する患者は皆無となった。この功績は素晴らしい。
その後の理化学研究所の功績はいつか書きたい。
脚気の話として明治の文学者でバカ軍医の森鴎外の事を取り上げる。個人的には怒りを感じているからである。
彼は陸軍で最も偉い軍医だったのだが、陸軍の食事は栄養価の高い白米を食せと強く推薦していたのだ。しかし日露戦争の頃には兵士の脚気患者が激増したというのがある。
海軍は麦飯、パン食を導入していたので脚気で死亡する兵士は皆無だったのであるが、森鴎外は脚気細菌説を生涯主張していたのである。
日清戦争では、陸軍の戦死者293名に対して脚気による戦病死3,944名と戦死者の何と13倍。
日露戦争では、戦死者47,000名に対して、脚気による戦病死27,800名、脚気患者は21万1,600名という惨憺たる状況だったのである。
陸軍将兵の間にも海軍では「麦飯が脚気の予防、治療に効くので麦飯を支給している」ことが伝わっていた。
麦飯が食いたいと言いながら脚気で死ぬ者が続出したという。可哀想なことである。
森鴎外が退任した後、陸軍も麦飯を導入したのである。当然、脚気患者は激減した。
権威主義で自己の主張を絶対に曲げない明治の文豪のお陰で、死ぬ必要のない人間が何万人もいたのである。彼がメンツを捨てていればどれだけ人が助かったのだろうか。
反省は全く無かったという点でも、現在の薬害エイズ問題に近いことではあるが、実際に亡くなった数で言えば薬害エイズの比ではない。
現在、彼が生きていれば有罪判決が出ていたかもしれない。文豪として名声を博しているのではあるが、個人的には評価を地に落としたい気分ではある。
森鴎外も先に書いた鈴木梅太郎の件も医学界の権威意識がおこした悲劇だということを知っておいてもいいのかもしれない。