テーマ:旅のあれこれ(10088)
カテゴリ:エッセイ
袋田の滝と仁和寺にある法師 徒然草に「仁和寺にある法師」という段がある。学校で習ったきりなのでほとんどの話は忘れてしまったが、この話だけはなぜか覚えている。 仁和寺の老僧が長年の念願であった石清水八幡宮を参拝した。ところがこの僧は麓の極楽寺や高良神社などを拝むと、八幡宮はこれで全部だと思いこんで、本来の目的である山上の八幡宮を拝まずに帰ってしまった。 そして同僚に向かって「長年、心にかけていた参拝を果たせてよかった。それにしても、参詣者が皆、山へ登ったのは何があったのでしょうか。」と間の抜けた会話をする話である。兼好法師は最後に「少しのことにも、先達はあらまほしきことなり。」と、その段を結んでいる。 今年の十月、ボクはこの仁和寺の法師を地でいく体験をした。義妹夫婦と夫婦二組で、茨城県にある〈袋田の滝〉を訪ねるドライブに出かけた。この滝は日本三大名瀑の一つで、かねてから訪ねてみたいと思っていた場所の一つである。 事前の調べで、町営の駐車場から滝までは1.2キロ、この往復だけでは面白くないので近くの月居山(つきおれさん)を通る4.5キロのハイキングコースを選んだ。標高差は450mであるが、ピークが二つあり、コースの半分は山道で、残り半分は急な階段が続く。思ったよりきついコースであった。月居山から最後の急階段を降りる途中、滝の音が聞こえ、木間がくれに滝を見下ろすことが出来た。 川岸まで下りて吊り橋を渡ると、観瀑台へのトンネル中間入り口がある。ここで入場料三百円を払って観瀑台へと向かった。トンネルは高さ3m、幅4m、全長276mの立派なものであった。吊り橋の中間入り口から5分ばかり進むと観瀑台に出る。突然、前が開けて正面に幅73ⅿの滝が姿を現した。アッと息をのむほどの素晴らしい景観。 「ついに来たー」興奮が一気に最高潮に達する。何枚も写真を撮り、去りがたい気持ちをなだめて帰路についた。この時、エレベーターのサイン(案内表示)を見かけたが、体の不自由な人が利用するのだろうと思って出口に向かった。念願を果たせて大きな満足感にひたりながら。 滝を訪ねる三日間のドライブの他に、カミさんの両親の墓参などの用事を済ませて一週間後に帰宅した。 滝のことをブログの記事にするべく、資料を整理していて唖然とした。なんと袋田の滝には我々が訪ねた観瀑台の他に、滝の全景を見渡すことが出来る、もう一つの観瀑台があったのだ。あのエレベーターはそこへ登るための設備であった。アリャー! 何たること! せっかく念願の滝を訪ねたというのに。これではまるであの仁和寺の法師と同じではないか。(2023年12月) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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