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カテゴリ:戦争映画
1969 フランス 監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
出演者:リノ・ヴァンチュラ、シモーヌ・シニョレ、ジャン=ピエール・カッセル、ポール・ムーリスほか 140分 カラー L' ARMEE DES OMBRES /ARMY IN THE SHADOWS DVD検索「影の軍隊」を探す(楽天) 第二次世界大戦時の1942年、ドイツ軍占領下のフランス・パリを舞台に、フランス人レジスタンス組織の活動を描いたサスペンス調ヒューマンドラマ。全体としては戦争ヒューマンドラマなのだが、映像や音楽をはじめとした雰囲気はサスペンス的な匂いがする。このあたりはやはりフランス映画独特の作りで、ゆったりと抒情感あふれるスローテンポ、あまりおおげさなBGMを使わず無音を多用しているのが特徴か。また、登場人物の名称や性格付け、ストーリー展開の解説台詞がほとんどないのも難解なフランス映画の系譜と言えよう。 ストーリーはドイツ軍に抵抗するフランス人レジスタンスを主人公に、ゲシュタポによる逮捕、収容所からの脱走などを描くのだが、それだけに留まらず身内の裏切り者処刑までもが描かれている。レジスタンス活動と言えば英雄的で格好良いイメージもあるが、反面逮捕の恐怖に恐々とし、細々と弱々しい活動をする姿も描かれているのが興味深い。零細な地下組織にとっては、些細な一つの裏切りが組織の壊滅を意味し、ゲシュタポの厳しい拷問に耐えきれず仲間を売ってしまったレジスタンスを処刑するシーンは、実に冷淡で非情な側面を露わにしている。実は監督のメルヴィル自身がレジスタンスに関わりがあったのだそうで、この辺りのレジスタンス描写は知る人ぞ知る内情ということなのだろう。 こうしたレジスタンスの緊迫した行動をサスペンス的に描くことにより、手に汗握るドキドキ感を堪能することが出来る。特に、仲間を救出しにドイツ軍ゲシュタポ本部へ潜入するシーン、ゲシュタポが機関銃を構える中走って逃げ切れたら処刑を延期してやるというシーンは絶妙。 ただ、残念なのはレジスタンスの組織構成、その背景についての描写がほとんどなかったため、レジスタンスの命がけの行動への感情入れ込みがややしずらかった点か。本作では謎の大ボスがキーマンの一人にもなっているので、あえて描写しなかったのかも知れないが、すでに戦後半世紀以上を過ぎた今となっては、レジスタンスの行動や思考が理解しづらいかもしれない。映画的には完成度が高いのだが、現在の視点から見てやや古さを感じてしまったのが大きな減点の要素となった。 実際のフランスレジスタンスはドゴール派、共産党派など諸派が入り乱れ、内紛などもあってゴタゴタが絶えなかったようで、そのあたりは「パリは燃えているか(1966 仏米)」が詳しく描かれていて興味深い。本作ではイギリス亡命中のドゴール将軍から勲章を授与されていることから、ドゴール派のレジスタンスであることがわかる。 映像や音響で過度な演出がほとんどないため、本作は役者の演技力が注目点の一つでもある。主人公の土木技師ジェルビエ役リノ・ヴァンチュラはオーラこそ感じないが、目ばかりがぎょろぎょろといかにも日陰のレジスタンスらしい渋い演技。このほかシモーヌ・シニョレもインパクトある女傑ぶりを好演するなど、個々の俳優の豊かな個性が光っている。 撮影はフランスで行われており、登場する兵器類はフランス海軍の協力を得ているようだ。実際に撮影したのか、映像を提供されたのかは不明だが、フランスからイギリスに脱出する際に用いる潜水艦として、フランス海軍のオルセー級潜水艦が登場する。鼻先がもっこりと盛り上がった特徴的な艦首で、艦橋にはS644と見える。ただS644はダフネ級になってしまうため、詳細な艦名はよくわからない。航空機では連絡用としてライトサンダー直掩協同機風の機体とホイットレー3爆撃機が登場するが、後者の爆撃機はミニチュアのようだ。 また、使用される建物などはスケール感が感じられ、ロケにはかなり金がかかっていることを想起させる。全般に画像が暗いのは時代のせいか。 総じて完成度の高い作品と言えるが、先にあげた背景や歴史性の欠如から若干ストーリーに浅さを感じてしまったのが残念。いかにも1960年代のフランス映画らしい特徴を堪能できるが、現代の映画作風に比較するとやや物足りない。ただ、懐古的なものを求めるのであれば、それはそれで堪能できることは間違いない。 興奮度★★★ 沈痛度★★★★ 爽快度★ 感涙度★ (以下 あらすじ ネタバレ注意 反転でご覧下さい) 1942年10月20 日、パリの凱旋門をドイツ軍が行進している。占領されたパリでは公共事業部土木技師フィリップ・ジェルビエ(41歳)がドゴール派レジスタンス分子として逮捕される。監禁された収容所にはすでにプレシス大佐、薬剤師のオペール、ドゴール支持派デモに参加したサラリーマンのボナフス、共産党員ルグラン、教師のアルメルらが投獄されていた。このほか、収容所にはロシア人、ポーランド人、ベルベル人、ユダヤ人、ジプシー、ユーゴスラビア人、ルーマニア人、チェコ人、反ナチス、反ファシストが収容されていた。 ジェルビエはルグランらと協同して収容所脱出を画策し、ドイツ監視兵を殺害して逃亡に成功する。ジェルビエは理髪店に逃げ込むが、店主は傀儡政権派だった。だが店主はジェルビエを見逃してくれる。 ジェルビエを売ったのは仲間のドナだった。ジェルビエはドナを呼び出し、ビゾン、フェリックス、新たに仲間に入ったマスクとともに隠れ家でドナを処刑することに。ジェルビエはマスクに処刑を命じるが、びびるマスクはできず、結局フェリックスが首を絞めて殺害する。 フェリックスは酒場に行き、そこで旧知のジャン・フランソワに再会する。フェリックスはフランソワが使える男だとして仲間に引き入れる。フランソワは無線機の配送を命じられ、度重なる検問を機転で突破し成功させる。 一方、ジェルビエは指名手配から逃れるために、匿っている連合軍兵士らとともにいったんイギリス本国へ渡ることに。全員をヴィエラの農場に集め、夜に待機していた潜水艦に乗って脱出する。イギリス本国ではドゴール将軍から勲章を貰う。ロンドンではドイツ軍の空襲を受けているが、兵士達は慣れたもので逃げもせずにダンスに興じている。 そんな中、フェリックスがドイツ軍に捕まったとの報が入る。イギリスで何もできないジェルビエはフランスに戻ることにし、爆撃機からの落下傘降下でパリに戻る。新しいアジトは元騎兵隊将校だったフェールタロクール男爵邸となる。 パリではフェリックスに代わって統率力に優れた女傑マチルダが指揮を執ることに。何とかゲシュタポ本部に捕らえられたフェリックスを取り戻そうと画策を練る。マチルダの計画はマチルダ、ビゾン、マスクの3名でゲシュタポ本部に潜入するというものだったが、問題は計画を中のフェリックスにどうやって伝えるかだった。それを聞いたフランソワはフェールタロクール男爵を売ってゲシュタポにあえて捕まる。フェールタロクール男爵は捕まって処刑されるがフランソワはなんとかフェリックスに会うことが出来る。だが、フェリックスは既に拷問で瀕死の状態だった。マチルダらはドイツ軍に変装し、救急車でゲシュタポに潜入し、フェリックスの移送を試みるが、医師の診断でフェリックスの移送は拒否され失敗に終わる。 ジェルビエも食事中に捕まり収監されてしまう。収監されていたほかの4名とともに銃殺刑が始まるが、ドイツ軍将校は走って逃げさせ、標的まで逃げ切れば処刑を延期してやると言う。プライドの高いジェルビエは走ることを拒否するが、威嚇されしかたなく走り始める。その時外から発煙弾が投げ込まれ、ジェルビエは投げ入れられたロープで救出される。マチルダが仕組んだ救出劇だったのだ。ジェルビエは受けた傷もあったため、1ヶ月隠れ家に隠れることに。 隠れ家にいたジェルビエのもとにレジスタンスの大物ルクがやってくる。マチルダがゲシュタポに捕まったというのだ。しかも持っていた娘の写真が見つかり、娘を盾に脅されているというのだ。さらにそこにビゾンとマスクがやってくる。マチルダが仲間を売って釈放されたというのだ。命の恩人のマチルダだが、ジェルビエはビゾンらにマチルダの殺害を命じる。ビゾンはこれを拒否するが、結局ルクの決断でマチルダ殺害が決定される。マチルダもそれを願っているはずだというのだ。 1943年2月23日マチルダを殺害する。 1943年11月8日、マスクことクロード・ウルマンは青酸カリで自殺。ビゾンは1943年12月16日、ドイツ兵によって打ち首。大物のルク・ジャルディは1944年1月22日拷問の末死亡。1944年2月13日フィリップ・ジェルビエもまた走ることを辞めるのだった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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