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2007年04月27日
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電話の音。工場の離れで机に突っ伏す田原。床には枯れた花、割れた鉢、本が散乱する。

「ドクター田原も人が悪い。首尾良く行っていたんじゃないですか、契約者の発動を封じる研究は。
それにしても実の娘さんを実験体にしていたとは気がつきませんでした。
もちろんこちらから工場へ出向いても宜しいのですがこれ以上の犠牲は私どもとしても避けたいもので。
娘さんは必ず解放しますよ。約束します」とケネス。

その間本のページの角を折り続けるルーコ。

床にお絵かきする舞。目は虚ろ。
「えーとね、髪の毛はぼさぼさになってて~」

電話を切る田原。気がつくと部屋の中に黒。
「本当か、娘を実験体にしたというのは?娘に何をした?舞の手首に何を埋めた?」淡々と尋ねる黒。
「一度位は耳にしたことがあるんじゃないのか?私が第一次ゲート調査隊の唯一の生き残りだと言うことを。
その時私はゲートからとある物質を持ち帰った。その物質を契約者の体内に埋め込むことで能力の発動を封じられる可能性がある。
それを発見したのはマイヤーアンドヒルトンに雇われて二年程経ったある日。
そしてちょうど同じ頃だ・・・」

花壇で火が付く花や甲虫。驚いた田原と妻。花壇の前に座り込む幼い舞。
「舞、止めなさい!」
振り向く舞の眼は虚ろ。
「どうして?」

「契約者という存在がどんな目で見られているか君だって知っているだろう?
私はまだ完全には解明が済んでないそのゲート内の物質を舞の手首に埋め込むことであの子の能力の発動を封じようとした。
藁をも掴む思いだった。いや、正確にいえば藁ではない。自分が掴んだのは種だ。
今思えばその種にはゲートの呪いが仕掛けられていたのかもしれない。
あれは踏み入ってしまったことへの報いか?
舞に埋めた種もいつかは朽ちる。そうすれば再びあの子の能力は発動する。
私は研究を続けた。解明できたのは完全なる封印は不可能だということ。
そしてその種を埋め込まれた母体はモラトリアムへと変態しその呪縛はいつ解かれるか分からない。
私はこの手で実の娘を契約者にすらなりきれない化け物に変えてしまったのだよ。
あらゆるデータを破棄した。舞の記憶はMEで消去し私は社を離れた。
このことを奴らに知られるわけには行かなかった。
本当の実験体にされたくはなかった」

「そして貴様はすべてを投げ出し逃げてきたというわけか?」

冷淡な黒の声。黒に掴みかかる田原。

「言っただろう?契約の発動を封じることは所詮不可能だと。
それでも続けろというのか?意味もない実験をあの子を・・・
持ち帰ることができた種は二粒だった。ひとつは舞の手首、もう一つは・・・(割れた鉢植えを見つめる田原)
埋めた種が朽ち果て消えたとしても新たに実った種をまた埋めることが出来れば、
そうすれば舞のモラトリアムとしての本性は永遠に封じることができる
私はこの鉢植えに水をやっている時間だけは心を休めることができた。だがその時計も今朝止まった。
種は実らなかった。私は怖かったんだ、自らの過ちの結果を目にする瞬間が恐ろしかったんだ!」

田原が話している途中からそっとその場を立ち去ろうとする黒。

「こんなことなら契約者でいてくれたほうがよっぽどマシだった!」

田原の言葉に足を止める黒。

「懺悔するなら相手が違う。あんたはいつまでもこの部屋に閉じこもっていればいい」

部屋を出ていく黒。うなだれる田原。
「たくさんの実が成る筈だったんだ。舞、お守りの種がいっぱい、いっぱい実る筈だったんだ」


取引場所。床に笑顔の父の絵を描く舞。
「それから~、眉毛はげじげじで、おひげがちょぼちょぼしてて」

「ん?」ルーコが気配を感じる。
「来たか?」とケネス。
「ええ、どこかの犬が」機関銃のような音。

消灯。銃とともに倒れている男の姿。
配電盤でスイッチを切る仮面をつけた黒。

工場の離れを見にきた猫。もぬけの殻。
「あいつ!」

洗面所で探索する銀。
「江東区、東雲の倉庫街」
走る猫。

廊下を走る黒。扉の内がわに銃を構える男が二人。黒が握るドアノブが青く光る。
うわ~と鉄柵から落ちる男たち。

ドアを開け侵入する黒。と見えないナイフが壁に突き刺さる。
「契約者か」

「どうやらあんたも同類らしいな?」赤く眼を光らせるルーコ。見えない鞭を振るう。

ナイフをつけたワイヤーを投げる黒だが、断ち切られてしまう。
同時に支えを切られ重みに耐えかねた床が落ちる。
バランスを崩しながらも後方に向かってワイヤーを投げ巻きつけその場を離れる黒。
しかし敵の鞭が黒の仮面を切り裂く。

あわやというところでワイヤーで床に降りる黒。

「そこまでだ。田原の娘がどうなってもいいのか?」
振り向いた黒の目の前にはケネスによって首に手をかけられ銃を突き付けられた舞が・・・

「俺なんかに構ってないでとっとと娘を取り戻していれば良いものの」とルーコ。
「全くおかしな契約者を雇ったものだな、ドクター田原。」とケネス。

入口に立つ田原。
「娘を返してもらおう」
「では、力をお貸しいただけるんですね?」
「私は君たちの所へは戻らない。代わりに研究の試料がここにある」
「渡してもらおう」
「娘が先だ」
「ほら、舞ちゃんの大好きなパパが迎えに来てくれたよ」
「やだ、知らないあんな人」

舞に近づき手首を掴む田原。

「いやあ!」

舞の叫びと同時に燃え上がる炎。

「早く試料を渡せ!」焦るケネス。

ポケットから枯れた花を取り出し床に投げ捨てる田原。

「何だこれは?」
「試料だ」
「何の冗談だ?早く本物を」
「これが私の研究のすべてだ」

たちまち花にも炎が移る。

「嫌だ、放せ!」
父を認識できない舞は激しく抵抗するがしっかり抱きしめる父。
ますます燃え上がる炎。

「違うもん!舞のパパはもっとかっこいいもん!もっとすごいんだもん!!」
「お前の父親は酷い奴だ」
「酷くないもん!いっぱいお話してくれるもん!舞のこと守ってくれるもん!舞はパパが大好きだもん!!」

はっとする父。
「パパも大好きだよ。愛してる、舞」
ようやく父と認識したためかほほ笑む舞。微笑みながら舞の背中にナイフを突き立てようとする田原。

田原の腕を突き抜ける契約者の見えない剣。ナイフを落とす田原。

「奴はもういい。サンプルを優先しろ!」ルーコに命じるケネス。
気づいた黒がルーコにナイフを投げ腕に刺さるが、見えない剣は放たれ、田原の胸を貫く。

「ふっ」と笑みを浮かべるルーコ。と、既に後ろから回り込んでいた黒。
「貴様らに笑みなど似合わない」黒の力に苦悶の表情を浮かべる契約者。

膝の上に父の頭をを抱え込むように寝かせる舞。
「舞、お仕事がねようやく終わったんだ。舞、ただいま」
涙が一筋流れる舞。
「お帰り、パパ」

父をそっと床に横たえた舞。男に対峙する。

「待て、やったのはルーコだ。私じゃない」

「止めるんだ舞」諭す黒。

「どうして?」舞の眼が赤く光る。

「やめてくれぇ」
銃を撃つ間もなく舞に焼かれるケネス。火災警報機が鳴りスプリンクラーが働く。

燃え盛る炎と雨のように降り注ぐ水の中、舞の歌声が響く。ようやく訪れる猫。

「対価だ」黒。
「契約者に変化したのか?モラトリアムが?確率は0のはずだ」驚く猫。

「全く、奇妙なこともあるもんだ。田原のことはまあいい。代わりに面白いものが手に入ったからな」いつの間にやら入口に立つ黄。

歌い終わった舞。
「私、たくさん殺した気がする」
「落ち込むこたぁねぇ。契約者は人を殺してなんぼだからな。へっ!気落ちなんかしてねぇか」
「私はどこへ行くの?」
「天国さ。ちょっとばかし長い船旅になるけどな」
黙ったまま見つめる黒。

床には息絶えた田原の死体。

(霧原の独白)
私たちが到着したときには既にモラトリアムの姿も共に瞬いたメシエコードBK201の姿も確認できなかった。
その後、特1032号事件の捜査は公安部の手を離れることとなり現時点でも然したる情報は上がってないという。
しかし確かなことが一つだけ。あの時生まれた新星はまだ流れていない。

(ED)

次回予告
東欧から来たのはかつて悪魔と呼ばれていた女。
抜け殻の瞳が写すのは白く冷たい喪失の光。
開かれることのないその唇から洩れる吐息は悪魔のささやきか?安堵の溜息か?
災厄の風はもう二度と吹かない筈だった。そして罠は仕掛けられた。

第五話「災厄の紅き夢は東欧に消えて・・・(前編)」


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最終更新日  2007年04月27日 12時52分48秒
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