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いつかどこかで

いつかどこかで

監督ウォン・カーウァイの世界

監督 ウォン・カーウァイの世界


監督ウォン・カーウァイ作品を紹介。
直接言葉にされないのに、伝わる思い。美しくないものをも美しくスタイリッシュに捉えた映像。
本日紹介した4作品に共通の、ウォン・カーウァイの作風です。
わたし的に真のハードボイルド。とにかくカッコいいのです。



『 若き仕立て屋の恋 THE HAND ~ 愛の神、エロス 』 2004 米・伊・仏・中

        監督 ウォン・カーウァイ
        出演 コン・リー チャン・チェン

1963年香港。仕立て屋見習いのチャンは、高級娼婦ホアの部屋を仮縫いに訪れ、その手に触れられることで初めての女性体験をする。
以来チャンは叶わぬ思いに苦しみながらホアを愛するようになる。
チャンは、パトロンに捨てられて落ちぶれていくホアを陰で援助し、もはや着られることのない彼女のドレスを縫い続ける。
ホアは病に侵された死の床で、ドレスを持って会いに来るチャンに、尽くしてくれたのに何もしてあげられなかった、と言う。
「 残されたのは手だけ。手ではいや ? 」 と尋ね、最期の、悲しくも官能的な時を過ごす。

美しい作品です。コン・リーも、ドレスも、退廃的雰囲気を醸し出す部屋やホテルも、美しい。
コン・リー演じる娼婦ホアは、その白い手以外一度も肌を見せません。
チャイナドレスはきっちり首までを覆い、仮縫いに下着姿になることもありません。
にもかかわらず、匂いたつようなエロティシズムに息が詰まるようです。
そしてまた、ドレスを前にホアへの思いに苦しむチャンの姿。その切なさにも胸が締め付けられます。

カーウァイ & コン・リー、見事としか言いようがありません。

実はこの映画、3つの短編から成るオムニパスです。
1本目が、上記 『 THE HAND 』 で、
2本目が 『 ペンローズの悩み 』( 監督 スティーヴン・ソダーバーグ )、
3本目が 『 危険な道筋 』( 監督 ミケランジェロ・アントニオーニ )。この2、3つ目が見事に、まあ、駄作。
2つ目はちょっとシュールなユーモアを感じないこともないんですが、3つ目に至っては、何じゃこりゃって感じ。
若い奔放な女性の豊満な肉体をこれでもかこれでもかと映し、訳の分からない自慰行為やらダンスやらに興じるのですが、あまりの
痛々しさに早送りしてしまいました。
男性が観ればまた違うのでしょうか。分かりません。

この3つのエピソードを、ロレンツォ・マットティ の絵画と カエターノ・ヴェローソ の音楽が結びます。
初っ端、タイトルバックにこの絵と音楽が出た途端、あまりの美しさに衝撃を受けました。凄いです。



『 今すぐ抱きしめたい 』 1988香港

        監督 ウォン・カーウァイ
        出演 アンディ・ラウ マギー・チャン ジャッキー・チュン

ギャングの世界に生きるアンディと、堅気の世界で真面目に生きるマギーの恋。
香港の大繁華街モンコクに住む従妹アンディを訪ねたマギーは、ギャング組織の中で荒んだ生活を送る彼に反発しながらも、惹かれる。
度重なる抗争に疲れていたアンディもまた、純真で真面目なマギーに心惹かれる。
一度は去る彼女をアンディは、ランタオ島まで追い、ふたりは結ばれる。
が、弟分ジャッキーをトラブルから救うべく再び暗黒街へと向い、警官に銃殺される。

ふたりは多くを語りませんが、情景とプロセスが淡々と重なっていく中で、痛いほどの思いが伝わってきます。
ギャングですから当然といえば当然、全編にわたって悲しい結末を予感させる空気が流れていて、切ないです。



『 欲望の翼 』 1990 中国

        監督 ウォン・カーウァイ
        出演 レスリー・チャン アンディ・ラウ トニー・レオン ジャッキー・チュン

1960年代香港。ミミと同棲するヨディ。ヨディに思いを寄せるスタジアム売店の店員スー。スーを慰める警官。
ミミに思いを寄せるヨディの親友。若者たちの彷徨う心と運命を描く。

淡々とした情景描写から登場人物の切ない思いがひしひしと伝わってきます。
映像にはスピード感があり、時計や電話や階段などの小道具も思わせぶりでスタイリッシュです。
遠い国のジャングルでヨディが死ぬ時、香港では誰もいない公衆電話のベルが鳴り続ける、といったような情景が、余韻を残します。



『 恋する惑星 』 1994 中国

        監督 ウォン・カーウァイ
        出演 トニー・レオン フェイ・ウォン 金城武 ブリジット・リン

金髪の女麻薬ディーラーと、失恋した刑事モウ。モウが立ち寄る小食店の店員フェイと、スチュワーデスの恋人に振られた警官。
無国籍地帯重慶マンション界隈を舞台に、出会い、すれ違う二組の男女の物語。

暗い夜、狭い路地、騒然とした雑踏で表わされる香港。
青い海と空、Mamas & Papas の 『 California Dreamin’ 』 で表わされる憧れの地カリフォルニア。
それらを背景に様々に織り成す若者たちの心の襞が描かれます。
悲劇ではなく、どことなくシニカルに喜劇的。でもやっぱりどこか切ないのです。



『 ブエノスアイレス 』 1997香港  原題 『 春光乍洩/Happy Together 』

        監督  ウォン・カーウァイ
        出演  トニー・レオン   レスリー・チャン  チャン・チェン

香港からアルゼンチンへ流れてきたゲイのカップル、ファイとウィン。
喧嘩別れをしては “ やり直す ” を繰り返し、ファイは深く傷付いてゆく。
ファイは、レストランの厨房の同僚であり、やはり旅の途中と言うチャンとの友情にいっときは心安らぐが、やがてチャンも “ 世界の果て ” を
目指して旅立ってゆく・・・


ルーツを遠く離れて、地球の裏側を彷徨う3人の男たちの、匂い立つような、息苦しくなるほどの“ 愛 ” と “ 孤独 ”の物語。

ブエノスアイレスの夜の裏町、イグアスの滝、南米最南端のエクレール灯台などの風景には息を呑むような迫力があり、バックに流れるピアソラの
アルゼンチン・タンゴも胸に迫ります。
ファイとウィンがたどたどしくタンゴを踊るシーンも印象的です。

原題は、『 Happy Together 』・・・・ ふうん、と思っていたら、ラストに懐かしいタートルズの同名曲が流れ。
いつまでも耳に残ります。

・・・・ 長くなりそうなので、願掛け明けに追記します。






『 花様年華 』 20001香港 

        監督  ウォン・カーウァイ
        出演  トニー・レオン   マギー・チャン

1960年代、香港。貸部屋の隣に住む2組の夫婦。
それぞれの相手が不倫をして残された二人の男と女が、傷を舐めあうように寄り添ってゆく。
いつしか本気で愛し合うようになるが、プラトニックな関係から踏み出すことはできないまま ・・・・


カーウァイ監督お得意のすれ違う愛の物語。
コントラストの強い画像で、香港のうらぶれた小路や狭苦しい集合住宅が赤を基調に情感豊かに映されます。
で、そこには全くそぐわないマギー・チャンの美しさにため息が出ます。

マギー・チャンは、寡黙で切ない愛を演じるとえもいわれず良くて大好きなんですが、これの彼女も最高に綺麗でした。
首の長さを強調するような、殊更ネックの高いチャイナドレスを、取っ替え引っ替え何着も着ますが、うっとりするほど素敵。
原色の花模様やら、日本の紬を思わせるような地味な縞やら、もうとにかく素敵でした。




『 マイ・ブルーベリー・ナイツ 』 2007 仏・香港

        監督  ウォン・カー・ウァイ
        出演  ノラ・ジョーンズ ジュード・ロウ デヴィッド・ストラーザン レイチェル・ワイズ ナタリ・ポートマン 

NY。恋人に捨てられたエリザベスは、恋人の行きつけのカフェに乗り込み、そこで、カフェのオーナー、ジェレミーと売れ残ったブルーベリー・パイに
慰められる。
エリザベスは、夜更けにジェレミーの店で売れ残りのパイを食べるのが日課になるが、ある日、
NYを後にして旅に出る。
働きながら、あてもなく旅をして、様々な人と出会い、先々でジェレミーに手紙を書く。


私が心酔するウォン・カー・ウァイの新作、しかも初の欧米俳優による英語版。
しかしこの数ヶ月映画館へ足を運ぶたびその予告編を観て、予告編を観る限りではどうもあまりウォン・カー・ウァイっぽさが感じられず、
期待しすぎてコケたらどうしよう、と見るのをためらっていたのでした。
とはいえ、カー・ウァイ ファンを自称しながら観ないわけにもいかないし ・・・ でも期待外れだったら ・・・ うーん、恐い ・・・・ というわけで、
近くの映画館での上映最終日の今日になって行ってきました。

どうでしょう、期待外れってことはありませんでした。
むしろ、カー・ウァイらしさ全開、誰がどこを観ても カー・ウァイそのもので、めいっぱい “ らしさ ” を堪能しました。
でも、なんていうか逆に、“ やりすぎ ” 感があるのね。
あまりにも “ らし ” すぎて、感性というより、機械的にやっているような気さえしてしまう。
彼の “ スタイリッシュ ” はもう新しくなくなってしまったのかしら。こっちが飽きてしまったのかしら。
もし舞台がNYではなく香港で、ジュードではなく金城武やアンディ・ラウだったら、違和感はなかったのかしら。
ちょっと判断がつきません。

悪口ではないの。とても素敵な映画だったと思います。
カー・ウァイへの期待が大きすぎるのでしょうね。

ナタリー・ポートマンのエピソードは悪くはないけどちょっと退屈してしまいました。
その前の、デヴィッド・ストラーザンとレイチェル・ワイズのエピソードは、ストラーザンの悲しみが切ないです。
でメインとなる、ジュードとノラのエピソードは ・・・・ これも悪くはないんだけど、もっと胸キュンになっていいはずなのに ・・・・ なんでかな。
これ、アンディ・ラウ ( トニー・レオンでもいい ) と マギー・チャン がやったりしたら絶対泣けたと思う。( 20年前のね )
とはいえ、じゃあ英米俳優の他の誰ならぴったり ? と考えると、やっぱりジュード・ロウなんだわ。

カー・ウァイ作品は台詞が少なく、特に説明調だったり総括調だったりの台詞のないのがいいのに、これは少しそれが多いのも気になり
ました。
やはり母国語でない映画を撮ると、何かが変わるのですね。
あー、やっぱり期待が大きすぎるのだわ。
いずれにしろ、ストーリーより映像と音楽に重きがいった映画なのだな。
今まで中国映画を観なかった人たちが カー・ウァイを知る良いきっかけにはなるのかも知れません。

音楽は良かったです。
主題歌はノラ・ジョーンズ自身が書いたそう。心に迫るとてもいい曲です。

いつものように エンド・クレジットを読んでいて、びっくり。( DVDなら巻き戻し )
脚本に、ウォン・カー・ウァイ と並んで、ローレンス・ブロック の名が。
あの マット・スカダーの ローレンス・ブロック ?
だとしたら、ブロックは美文調の長台詞の多い人だから ( 翻訳しか読んでない人間が言うのはおこがましいのは百も承知 )、映画が
そうなったのも頷ける。・・・・・・ かも。
同時に、物語の中に流れる都会 ( NY、香港、ブエノスアイレス etc ) の退廃と寂寥感は、カー・ウァイとブロック、確かに共通点があって、
妙に納得してしまいました。



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